ジャンプとマーガレット。
お兄ちゃんの部屋でケーキをつつきながら、
花咲の前にうちの商品カタログを広げて見せる。
「あ、何だろこれ、ものすごく見易いな」
「そりゃ、花咲が昨日立ち読みしてたのと比べたらね」
小中学生向けのあの手の雑誌はドライアイにさせたいのかと思うぐらい、ページいっぱいに細々と情報を載っけてある。
付録に水玉模様の老眼鏡でもつけたらいい。
「あんたみたいなチャレンジ一年生があんなの読んだって混乱するだけだよ」
「確かに読むのに必死だった……」
「んで? 何か着てみたいのとかある?」
「あ、えっと。こ、これ……とか」
「ああー、それかわいいよねぇー」
と言って、自分の載ってるカタログを覗き込むお兄ちゃん。
花咲が恥ずかしそうに指さした写真は甘々のゴスロリだった。
ああ……これか。
お兄ちゃんには恐ろしく似合ってたんだけど、いわゆるモデルと我が子の次元の差が顕著に出たパターンで、値段も高い方だったしで返品の嵐だったんだよなぁ……。
っていうか。
「花咲あんたってさ、前にお兄ちゃんに、そんなふわふわした服着やがって、みたいなこと言ってなかった? これ、あの時のよりもずっとふわふわしてるんですけど?」
「いや、あれは……その……」
「本当は自分も着たいけど無理だから、そういう格好してるお兄ちゃんにつらく当たった。とか?」
「うぅ……」
「そしてあろうことか、その延長でお兄ちゃんに自分のランドセル持たせたり、給食のデザートを取ったりした。とか?」
「あぁ、うぅ……」
「まさかね。まさかあの花咲充がそんな器の小さいことしないよねぇー?」
私はここぞとばかりにネチネチと攻める。
もう少し楽しんでやろうとした矢先、
「すまんセイラ! あの時は本当に悪かった。この通りだ!」
そう言って花咲があっさりお兄ちゃんに頭をさげる。
まさかの土下座。
ちょっと攻め過ぎたかな……。
「ふぇぇ!? は、花咲さんなにぃ? えぇーえぇー! あ、頭あげてよぉー!」
「お兄ちゃん忘れたの? 前に花咲にランドセル持たされたりしたでしょ?」
「だ、だって、あれはボクがそうしたいからそうしただけだよぉ」
お兄ちゃんが必死に花咲の頭をあげさせようとするが、花咲は頑として動こうとしない。
「そんな風に言ってくれなくていい。俺は人として恥ずかしいことをしたんだ。何なら一発殴ってくれ、セイラ!」
なにこの暑苦しい展開。
昭和のジャンプ?
河原行け、河原。
一方、別冊マーガレットなお兄ちゃんは。
「ふぇぇぇ? セリカちゃん、どうしよぉ~。花咲さんと話が全然噛み合わないよぉ」
問題はお兄ちゃんの方にあるんだけどね。
「まあ花咲の気持ちもわかるけど、お兄ちゃんは本当にこう思って言ってるだけだから」
「んなわけないだろ!」
「何でそう思うのよ」
「あんなことされてそんな風に思えるなんて、そこまで頭のネジが緩んでる奴いるかよ!」
「いるんだよ! 今更何言ってんのよ! お兄ちゃんはちょっとネジが緩んでん……」
あばぶ。
恐る恐る花咲から視線を動かすと、真冬に巣穴を掘り起こされたシマリスのような表情で、プルプルと小刻みに震えるお兄ちゃんの姿があった。
「……ボク……ねじ」
「ち、違う。違うのお兄ちゃん。今のは何ていうのかな……そう、頭がね、考え方がね、お兄ちゃんは柔軟だなぁって言いたかったの」
こんなお兄ちゃんの無垢さがそのまま女子にも伝われば友達もできるんだろうけど、普通に女子目線で見たら『つくってる』としか思わないよなぁ……。




