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友達とかじゃありません。

 翌日の日曜日。


「ただいまー」


「お、おじゃまします……」


 私のあとについておずおずと玄関を潜る花咲。


「花咲さん! いらっしゃいませ! どうぞどうぞー!」 


 そして玄関先で足踏みしながら私が花咲を連れてくるのを待っていたお兄ちゃんは超絶ごきげんだ。


 無理もない。

 小学校に上がってからお兄ちゃんの知り合いが家に来るのなんて、家庭訪問で先生が来るぐらいだったんだから。

 そのときですら嬉しそうにしていたお兄ちゃんにとって、今日の花咲の訪問は人生で五本の指に入るイベントだろう。


 昨日の夜からことあるごとに私の部屋に来ては、

「大きいケーキいるかなぁ」とか、

「プレゼントは何がいいかなぁ」とか、

「どうぶつの森やるかなぁ」とか、

「お雛様見るかなぁ」とか、

 興奮して色々イベントがごちゃ混ぜになっている様子だった。

 それを見た私は、何だかそこにこの五年間のお兄ちゃんのぼっち人生が濃縮されてるようで涙が出そうになった。


「いらっしゃい。花咲君ね」


 そう言って出迎えたのはお姉ちゃん。

 花咲のことをどっちで伝えるか迷った末、とりあえずお姉ちゃんには男の子だと伝えてある。


「いつもセイラと仲良くしてくれてありがとうね」


 そう言ってお姉ちゃんは花咲の手を両手で握った。


「あ、あのこれは……」


 何かを訴える花咲の手をよく見ると、握られた手の隙間から千円札が数枚見える。


「これからもよろしくね、足りなかったらまた言って」


 うちの姉はものすごくダメな大人だった。

 そんなやり取りには気付くはずもないお兄ちゃんは、


「花咲さん、こっちだよぉー」と階段を数段のぼったところで声をかけてくる。


 何とかお姉ちゃんにお金を返し、お兄ちゃんの後に続いて階段を登ろうとする花咲。

 私はその肩に手をかける。


「ちょっと待って」


「何だよ?」


「階段をのぼるのは、お兄ちゃん、私、花咲の順だから」


「そうなのか?」


「そうなのだ」


 だってあんな短いスカート、中丸見えじゃないか。


 私がお兄ちゃんのスカートの中を目視&ガードしながら階段を上っていると、後ろから花咲が声をかけてくる。


「なぁ」


「何?」


「パンツ見えてるぞ」


「んなバカな!」


 ガードは完璧なはず。

 私は花咲の方に振り返ると、羽織っていた上着を目一杯広げ視界を遮る。


「見るな!」


「いや、お前のパンツだ」


「何だ。私のプリントパンツでよければいくらでも見せてやる。ほれ」


「お前の脳味噌どうなってんだ」




「うわーっ!」

 と、お兄ちゃんの部屋に入るなり女子のような声をあげる女子、花咲。


「これってセイラの部屋?」


「そうだよぉ」


 花咲が驚いているのは、お兄ちゃんの部屋の内装だ。

 淡いピンクの壁紙に、天蓋付きのベッド。

 ふんわりレースのカーテンに、脚先までプリンセス加工された白い学習机。

 それに合わせたような白いクローゼットとドレッサー。

 何かの雑誌にそのまま載りそうな女子部屋。


「ぬいぐるみもいっぱいあんのな」


「そ、それはお姉ちゃんが買ってきてくれて、その、と、友達とかじゃ別にないから、気にしないでいいよぉ!」


「ともだち?」


 花咲の単なる感想に、勝手に墓穴を掘るお兄ちゃん。

 ぬいぐるみは十体ほどあって、みんなに名前がついている。

 端からアルベルトさん(熊)とフランソワーヌちゃん(兎)と、マリアさん(亀)と……あとは忘れた。

 ちなみにアルベルトさんは温和な紳士で、フランソワーヌちゃんはちょっとお転婆なお嬢様。

 マリアさんはフランソワーヌちゃんの教育係でキリッとしている。


 自分の部屋で宿題をしていると、たまに壁越しにお兄ちゃんと彼らの秘密お茶会の様子が聞こえてくる。

 前に一度どうしても直接見たくて、お茶会の真っ最中にいきなりお兄ちゃんの部屋のドアを開けてみたことがある。


 そのとき、部屋の真ん中でぬいぐるみに囲まれていたお兄ちゃんは、

 固まったまま信じられないものを見るような目で私を見ていた。

 その目を見たらとても「私も混ぜて♪」なんてセリフは出て来ず、

 私は深淵をのぞいてしまったのだとを猛烈に後悔した。

 それっきりそのことに関しては兄妹の間でのアンタッチャブルとなっている。


「まあ、ここはお兄ちゃんの部屋であり、お姉ちゃんの趣味と願望を凝縮した部屋でもあるからね」


 私がお兄ちゃんのフォローに回ると、花咲が少し驚いたような顔をする。


「へえー、まだ上にお姉ちゃんがいんのか?」


「いんのかって、さっき――」


 花咲の質問に答えようとしたところで、部屋のドアがコンコンとノックされる。

 お兄ちゃんがドアを開けると、トレ―に紅茶とケーキを載せて立っている件の人。

 あのケーキ……いつもの不二家のじゃないな。


「ゆっくりしていってね花咲君」


「お姉ちゃんだよぉ」


 そう言って、お兄ちゃんが改めてお姉ちゃんを紹介する。


「え、あ、お母さ――」


「お姉ちゃんだ」


 花咲の声がお姉ちゃんの耳に届く前に言葉をかぶせる。

 微妙なお年頃なんだ。迂闊な発言は控えていただきたい。


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