天使あります。
私は小さいころから友達が遊んでいるお人形遊びには全く興味がなかった。
別に家が貧しくて意地を張ってるだとか、 遊ぶ友達がいないだとかそういうんじゃない。
ましてやかわいいものに興味がないなんてこともない。
むしろ大好物。
ただ、単純に気付いてしまったのだ。
世界で一番かわいいものの存在に。
その時から私は、他の『かわいい』がものすごく安っぽく思えてしまうようになってしまった。
リカちゃんやバービーはもちろん、連日テレビで見かけるアイドル、
引いては自分すら『並』なのだと。
ガッチャガッチャといくつもの防犯ブザーをランドセルからぶら下げ、
秋空が広がる夕暮れの公園をいくその美しいものの後ろを私は着いて歩く。
フリルの付いた赤のジャンパースカートに白いボレロ。
白二ーソ。黒のスクールローファー。
真っ赤なランドセルに映える、まっすぐにおろしたサラサラ金髪はキューティクルがキラキラで天使の輪っかができている。
ランドセルに天使のはねって名前をつけた奴は天才か重度のロリコンだなと私は思う。
そのブロンドの後ろ頭が急に立ち止まり、屈んだかと思うと、
何かを拾い上げこちらを振り返る。
「ほら、もみじだよぉ。もう秋だねぇ」
のんびりした口調で秋の訪れを告げるその瞳は、フィンランド人の母の遺伝子を純度100で受け継いだ証のように鮮やかに碧く、それを納めるがために造られたような輪郭やその他のパーツの配分率は神様のオーダーメイドだ。
今目の前で、「実は天使だったんだよぉ」と告白されても私は一ミリも驚かない自信がある。
むしろ、やっぱりねと返すだろう。
女子なら普通そこまでかわいい子が身近にいれば、血がつながっているとはいえ多少なりとも嫉妬するもなのかもしれないけど、私にはそれは全くない。
何でかって――。
「どうしたのぉ、セリカちゃん?」
私は自分の名前を呼ばれてハッとする。
「何でもないよ――――お兄ちゃん」
そう。
この目の前の天使はあろうことか私の双子の兄。
男の子なのだ。
サラサラ髪の毛も、スラッとした足も、顔の輪郭も、細い鼻筋も、瑞々しい唇も、赤いベロも、ピンクの爪も……全部が全部女の子のそれなのに――男の子。
神よ。
私にこんなお兄ちゃんを与えたもうたことを心より感謝します。
ぺろぺろ。