6館 3人目
「お茶、どうぞ……」
▽少年は部屋に入ってもマントを脱がず顔を隠したまま2人にお茶を入れた。
▽3人は1階の客間にいる。
▽中は暖炉やテーブルにイスがあった。
▽それらは普通の物のはずなのに場所のせいか2人にはとても不気味なものに見える。
「(ドアが開いてる、あいつさっきここから出ておれらの後ろに来たのか)」
▽カザマがぼんやりと思う。
「えっととりあえず自己紹介だよな。おれは猛獣コースのナナギ。でこいつは――」
「勇者コースのカザマ」
▽2人が自己紹介を簡単に済ませ少年の方を見る。
「ボクはルチアントメウスボルゼノキア・シトロールトトマネルナキインノ……」
「そ、そっかよろし……」
▽しかし少年の口は止まらない。
「ファーントモネダシスルキオルネヨヌネ……」
▽少年の口はまだ止まらない。
『(名前長いっ!!)』
▽黙って少年の名前を聞いているとしばらくしてやっと少年は口を閉じた。
「終わった?」
▽ナナギが少年におそるおそる確認をとる。
▽それに対して無言でうなずく少年。
「なぁ、すげぇ名前長いから(いちいち呼ぶのめんどくせぇし)なんかニックネームとかそんなんねぇの?」
▽カザマは()内を心の中で言いながら尋ねる。
▽少年はしばらく口を閉じていたがやがて口を開いた。
「じゃあ頭文字とってルシファーで――」
『よろしくルチア!』
▽カザマとナナギは少年の言葉にかぶせて言う。
『(これ以上こいつに不気味要素が増えればこっちの身がもたねぇ!)』
▽2人は冷たい汗をだらだらとかく。
▽ルチア本人は2人の気も知らず何故2人は汗をかいているのかと首をかしげた。
「あつい……?」
「逆に寒い」
▽カザマの返答にさらに首をかしげるルチア。
「あぁー、でもあれだよな、ルチアってこの館に一人で暮らしてんの?」
▽ナナギが話題を変える。
「うん、元々はおじいちゃんのだったんだけど、もう使うこともないし、学校も家からよりこっちからの方が近いから……」
「へー、じぃさん金持ちなんだな」
▽カザマが感心したように言う。
「そうでもないよ、おじいちゃん大工だったらしいからこの家作るのにはりきってたみたい」
「それでもすごいじゃん」
▽ナナギも感心する。
「……2人がそう言ってるのをおじいちゃんが聞いていればすごく喜んだだろうな……」
▽ルチアは少し寂しそうに言う。
「(もしかして……ルチアのおじいさんってもう……)」
▽ナナギは心の中で考える。
「(どうしよう、聞いたほうがいいのかな、それともあんまりこういうのって聞かずにそっとしといたほうが……でもここでまったく関係のない話に変えると何か興味ないみたいに感じるかもしれないしでもやっぱりそう簡単に話せるようなことじゃなくて「こいつ、さっき会ったばっかりなのに馴れ馴れしいな」とか思われるかもしれないし……そうだよな首突っ込まない方がやっぱいいよな、きっとそうだ。うん)」
▽ようやく決心したナナギが口を開けようとした瞬間。
「なんだよ、じぃさん死んでんのか?」
「(サラっと言いやがったーー!?)」
▽ナナギは口を閉じる。
▽口を閉じた瞬間思いっきり舌をかんだが今のナナギは気にしない。
「(何でカザマはそういうことサラっと言えるんだよっ)」
「ううん、おじいちゃんは生きてるよ」
「え?」
▽ルチアの言葉に耳を疑うナナギ。
「生きてるの?」
「うん」
▽ナナギの質問に平然とうなずくルチア。
「えぇ!! だってさっき何かさも死んだみたいな感じだったじゃん!!」
「今は老人ホームで元気に暮らしてるよ……。老人ホームが遠いところにあるから滅多に会えないけど……」
「紛らわしい言い方すんなよ!! おれの気遣いなんだったんだってなるだろっ!」
▽思わず机をバンバン叩くナナギ。
▽口の中は今更血の味がする。
▽やっと自分がさっき舌をかんだと気がついたナナギは今度は急激な舌の痛みに耐え口を抑える。
「ナナギさん……どうしたんだろ……?」
「ナナギは時々急に変になるからほっとけばいいぜ」
▽心配そうに見るルチアと冷たい目で見るカザマ。
▽数分後、ナナギが一人口の中の痛みに半泣き状態で耐えた後。
「あぁー、話止めてすみませんでした」
▽素直に頭を下げるナナギ。
「別にいいけど……大丈夫?」
「舌かんだだけだろ? それぐらいで泣くなんて情けねぇーなー」
▽カザマの言葉にムッとするナナギ。
「お前舌をかむ本当の痛さ知らないだろ」
「痛さはみんなおんなじだろうが」
「同じじゃない。さっきのおれの痛さは山が一個吹き飛ばせるぐらいの痛さだった」
「お前そろそろ顔洗ってこいよ」
▽カザマが真顔でナナギにツッコム。
「……ハッ」
▽そう言われてようやくいつものナナギを取り戻したナナギは少し照れながらルチアに言う。
「おれ時々暴走するみたいだから気にしないで……」
「うん、そうみたいだね……」
「そ、そういえば外にカラスが大量にいたりしてたけどあれはルチアのペットか何かなの?」
▽ナナギがルチアに質問する。
「ううん、おじいちゃんが住んでた頃はあんなにカラスはいなかったはずなんだけど……。ボクが住み始めてからなんでか寄ってきちゃって」
『(うわぁ……)』
▽カザマとナナギが顔を背ける。
「あとなんでか雲まで集まってきたんだけど……。なんでだろうね?」
▽ルチアが首をひねるがカザマとナナギは顔上げない。
▽それはもちろんカラスや雲の原因は自分たちの目の前にいる人物だと思うと目が合わせられないからである。
「あ、でもいけるわ。合わせる目ないわ」
▽カザマはルチアが目を髪の毛で隠してることを思い出しバッと顔を上げる。
「物理的問題かよ」
▽そう言いながらナナギも顔を上げる。
「何が……?」
▽そして全くわかっていないルチア。
「ところで何でルチアってあんま学校こないの?」
▽カザマが急に話題を変える。
「そうだな、元々ここにも学校が近いから住んでるんだろ? どっか体の調子でも悪いのか?」
▽ナナギも首をひねる。
「ううん、それはただボクがインドア派なだけ……。学校も元々あんまり行く気なかったし……」
「え、じゃあルチアは学校サボってたってこと?」
▽ナナギが驚いたような声を出す。
「うん。親にはもちろん内緒だけど……」
「お前結構すごいことすんなー」
「お前は人のこと言えないだろ」
▽ナナギはカザマを横目で見る。
「でもそんなの学校のほうが許してくれないんじゃないか?」
「そこは……まぁ、演技とかで……。ボク元々健康な顔じゃないし」
▽その言葉に真剣にうなずくカザマとナナギ。
「……そういえば2人はなんでここに来たの?」
『え?』
▽ルチアに言われやっと要件を思い出す2人。
「あ、やべ。完全に忘れてたわ」
「えぇっと、最初から話すとね――」
▽主にナナギが事情を話し、カザマが居眠りをして、ルチアはお茶をすすった。
▽ナナギが全て話し終えるとタイミングよくカザマが目を覚ます。
「ってことだ、わかったか?」
「さっきねまで寝てたくせに偉そうに言うな」
「ようするに……卒業試験にボクも参加しなきゃいけないってこと?」
▽ルチアが2人に尋ねる。
▽もちろん2人はうなずく。
「リタイアってないのかな……?」
「個人リタイアは確か理由がなきゃ無理だったと思う」
▽ナナギが思い出すように答えた。
「家から出たくない」
「いや、ちゃんとした理由。私事とかじゃなくて」
「じゃあ辞退っていうのは……」
「だーかーらー、行くしかないんだって。もしクリアできなかったら大変なことになるみたいだしさ」
「大変なこと?」
▽ルシルが首をかしげる。
「おれらも何があるのか具体的には知んないけど先生が青ざめるぐらいだからな」
「もしそれに合格できなかったら引きこもるのも難しくなるのかな……?」
「さぁ? でもそうなるかもな。てかどんだけ引きこもりたいんだよ」
▽カザマがてきとうに返す。
「それは、困る……」
▽ルチアの言葉にナナギがここぞとばかりに言った。
「そうそう、それに試験って言ったって難易度はバラバラだしさ、もし簡単なやつなら数日もかからずに終われる。そしたらルチアはめでたく引きこもり生活を送れるってわけ、な? ちょっとの間だけ外出てちゃっちゃっか終わらせよう」
▽ナナギの言葉にルチアはしばらく考え込む。
「じゃあ、学園長のところまではボクも行って、それからボクは家にかえって課題は2人にやってもらうっていうのは――」
『いいから来い!!』
▽ルチアが仲間になった。
セーブ:6 カザマ・ナナギ・ルチア 館
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