10出発
▽朝、カザマ、ナナギ、ルチアが村を出発する今日も何とも平和な青空が広がり鳥がさえずり、まさに旅の出発日和であった。
「……」
「……」
「……」
▽本人たちを除いては。
「おい」
「なんだよ」
▽目の下にクマをつけたカザマがこれまた目の下にクマをつけたナナギに話しかける。
「バカだろ」
「そうだな」
「何でこれから旅に出ようって奴らがその前夜一睡もしてねぇんだよ」
「お前は数時間寝てただろうが」
「そうだよ、寝てたよ! おれは寝てたんだ!! なのにテメェらが勝手に人ん家入ってきておれをフライパンで叩き起こしたんだろうが!!」
「だってお前一回寝たらなかなか起きないだろ? だから……」
「だから寝てる人間の顔面フライパンを叩きつけたってか!?」
▽素直にうなずくナナギとルチア。
「てかお前止めろよ!」
▽カザマがルチアに文句を言うとナナギがあいだに入る。
「やめろよっ、こいつが発案者なんだぞ?」
「共犯者じゃねぇか!」
「いや、近くにフライパンがあったから……」
「あったから!? あったからこれで叩けって!? なんでそうなるんだよ!!」
▽3人とも睡眠を一切とっていないせいかテンションがおかしい。
「まぁ一回落ち着こう。せっかくの門出なんだからさ」
▽ナナギがカザマをなだめる。
「……まぁ、そうだな。じゃあ行くか」
▽こうしてカザマたちは自分たちの長年住んでいた村を出て長い旅が始めたのだった。
─30分後─
「道に迷ったぁぁあああああ!!」
▽森の中にナナギの声が響き渡る。
「あっれー、おっかしいなぁ」
▽地図を持っているカザマが不思議そうに首をかしげる。
「なんで森なんだよ、地図じゃ森の獣道に進むルートはなかっただろうが!」
「だって目的地まで真っ直ぐ行くのが最短ルートじゃん☆」
「あ、バカだこいつ」
「ねぇ……」
▽ルチアがカザマとナナギに話しかける。
「ん? どうしたんだ?」
「磁石がぐるぐる回って北がどっちかわからないんだけど……」
「方位磁石な、磁石は回りません。……って」
『はぁぁあああああああ!!?』
▽カザマとナナギが悲鳴に近い声を出す。
「おまっ、マジか!?」
「うん、ほら……」
▽ルチアは手に持っている方位磁石を見せる。
▽その方位磁石はルチアの言う通りぐるんぐるんと針が回り続けていた。
「まじかよ」
▽カザマの声のトーンが下がる。
「ん? でもさ」
▽ナナギは何か思いついたように言う。
「今自分たちの居場所もわかんないんだから方位磁石はあってもなくても同じじゃないか?」
「……」
「……」
「……」
『あ、そっか』
▽カザマとルチアが3秒遅れて反応する。
「なーんだ。じゃあ全然問題ないな。ノープロブレム!」
「いや、道に迷った時点で問題なんだけどな」
「じゃあさぁ、ルチアの魔法でなんとかなんねぇの?」
『え゛』
▽ナナギとルチアの動きが止まる。
「ほら例えばさ、転移魔法とか」
「え、えー……」
▽ルチアは自分が魔法を使えないことをどうやってごまかすか脳をフル回転させる。
▽しかしいい案は思いつかない。
「あ、あぁ! あれだその、3人は一変にムリなんだよ!」
▽ナナギが助け舟をだす。
「人数が多いとやっぱり大変だからな近くても2人が限界なんだよ、な! ルチア!!」
「う、うん……」
「へー、でもなんでそんなことナナギが知ってんだ?」
「き、昨日お前ん家行く前に色々と教えてもらったんだ」
「……まぁ、そういうことならしゃーねぇか。なんか別の方法探さなくちゃな」
▽そう言ってカザマはそこら辺をぶらぶらとし始めた。
「ナイスフォロー……」
「いやいや」
▽ルチアが小声でナナギに礼を言う。
「でも真面目な話なんとかしないと……人がいてくれればいいんだけどこんな森の中じゃいないよなー」
▽ナナギは頭をかく。
「おーい」
▽カザマが少し離れたところからナナギとルチアを呼ぶ。
「どうしたんだ?」
▽ナナギとルチアはカザマに駆け寄った。
「いや、こんなん見つけたからさぁ」
▽そう言ってカザマが地面に指を向けた。
「死ぬ覚悟しといたほうがいいぞと思って」
▽そこにあったのは頭蓋骨。
▽しかもどこからどう見ても人間のものである。
「うわぁぁあ!!」
▽ナナギは悲鳴をあげる。
「ばか、お前何軽々しく言ってんだよ!」
「だってホントのことだしー?」
「だとしてもだ!」
「わー、ひっかかったぁ!!」
▽突然子供の声が3人の耳に入る。
『!?』
▽声がするほうを向くとしげみから男の子と女の子が現れた。
「だーいせーいこーう!」
▽女の子がその場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「この子たちは……!?」
▽ナナギが唖然としていると男の子のほうがカザマに話しかけた。
「ほんとだな! あいつほんとにひっかかったな!」
「なー、兄ちゃんの言った通りだろ?」
▽その言葉を聞き、ナナギはカザマの胸ぐらをつかむ。
「どういうことだ、お兄ちゃん?」
「いや、なんかこいつらがおれらにイタズラ仕掛けようとしてたのたまたま発見したからさ」
「したからさ?」
「手伝ってやりました」
「そうか死ね」
▽そう言ってナナギはカザマの首を締めようとする。
「待った待った! おれだってタダでやったわけじゃねぇよ。こいつらがイタズラ手伝ってくれたら道教えてくれるって言うからさ」
▽カザマはナナギに絞め殺されまいと早口で言う。
「え、本当?」
▽ナナギが子供たちに尋ねると子供たちは笑顔でうなずいた。
「うん、おれらこの森の近くにある村に住んでるんだ! ここら辺からもけっこう近いよ!」
「まじか、ねぇところで、この金髪クズ野郎イタズラ手伝ってあげるって言ったときなんか変なこと言ってなかった?」
▽そう言ってナナギはカザマを指差す。
「うーんとねー」
▽女の子はかわいらしく首を少しかしげる。
「バンダナのお兄ちゃんのこと『外ハネバンダナダメおかん』って言ってたよ」
「そっかありがと!」
▽ナナギは笑顔で女の子に礼を言いながらカザマを殴り飛ばした。
セーブ:10 カザマ・ナナギ・ルチア 森
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