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13〜お昼時〜

 久々に受ける授業は分からない事だらけで戸惑ったけれど、河波君が休んでいた間のノートを取っていてくれたおかげで何とか授業についていくことが出来た。

 親友の恋人ってだけでここまでしてくれて……本当に河波君には感謝してもしきれない。

 それは河波君に限らず、授業中にも他のクラスメートたちが手厚く私を支援してくれた。おかげで今日一日の科目は殆ど理解し、一週間の遅れを取り戻せた気がする。

 こうして私に気を遣ってくれるクラスメートの皆の心がとても嬉しく、反面少しだけ気後れするところもある、早くみんなのサポートから離れて、少しでも安心させないと。

 気づけば午前中の授業は終わっていて、昼休みとなった。公立である西山高校は食堂など無いので、基本的に弁当持参(もしくは近所のコンビニで買う)、かつ教室で食べることになっている。もちろん、屋上は立入禁止区域なので誰も寄り付かない。

 とはいえ、教室で食べれば問題は無いので教室を移動している生徒は多い。私はいつも自分の教室で食べているのだが、このクラスは他教室で食べる生徒が多いので昼は過疎になる。


「おーい、一緒に食べようぜーい!」

「うん、いいよ~」


 気づけば今日も弁当をいつも馴染みの友達と広げ、以前となんら変わりない昼のひと時を送っていた。

 そういえば、仁君と付き合ってから一度だけ二人きりで食事をしたことがあったっけ。あの時は照れくさい表情をしていた仁君、可愛かったな。

 周囲の反応は、それはもう冷たいものだった。けど、私と仁君は気にせず二人の時間を過ごしていた。

 あの日々も、もう――。


「おーい、七瀬ちゃーん?」

「っ! あ、ゴメン……ぼーっとしてた」


 弁当を広げたまま箸を進めず、固まっていたのを心配したのだろう。対面に座る市川さんに声をかけられてしまった。

 私は笑って誤魔化したけれど、きっと目は笑っていなかっただろうと自分でも分かる。幸い、市川さんはそんなことを気にも留めなかった。

 ……もしくは、気づいてても指摘しなかっただけかもしれないけれど。


「それでさー、四組の滝口君なんだけど……」

「うっそー! 彼女いたんだ……残念」

「けど、一組のイケメンで有名な牧原くん、この前彼女と別れたんだって。チャンスじゃね?」

「マジで? けどフリーって知れたら競争率高くなりそう」


 食事をしながら聞こえてくるのは、恋の盛んな高校生らしく恋愛の話ばかり。

 別にその話をすることは悪くない。むしろ私も好きな部類。けれど、どうしても仁君を思い出してしまう。

 きりりと痛む心をおくびにも出さず、場の空気に馴染むように私は相槌を打ちながら微笑んだ。私の所為で、この和気藹々とした空気を壊したくなかったから。

 

「そーだ、七瀬ちゃん……ちょっと聞きたいことがあるんだけど。いいかな?」


 話が弾む空気の中、ふと市川さんが私に向けて遠慮がちに尋ねてきた。

 聞きたいこと、ね。大体予想は出来ているし、私もいつまでも逃げるわけには行かない。

 少し悩んだ後、無言で小さく頷く。


「ホント? じゃあ質問……告白の仕方、教えてくれない?」

「…………へ?」

「ほら、告白だって。愛の告白。コンフェッション。どぅゆーあんだすたん?」

「い、いぇあ」


 てっきり私と仁君のことを聞くと思っていただけに、拍子抜けすぎて相手のペースに乗ってしまった。告白も全くの無関係ではないけれど、私の想像の斜め上を行っていたので呆気にとられる。

 相手方もそれを気にしていないのか、私の気の抜けた返事を聞いて好奇に満ちた笑みを浮かべる。


「やった! それじゃよろしく頼みます~」

「うん、えっとね――」


 それからというものの、私は昼休みの時間をかなり使って恋愛指南をしていた。

 相手との馴れ初め、告白までの好感度の上げ方、いざ告白するときの心構えと場所や方法エトセトラ。最初は皆笑顔で聞いていたものの、私の弁に熱が入るにつれ真剣な表情で聞き入っていた。


「結論、告白はやっぱり面と向かって直球勝負が一番心に響く! 以上!」


 私が熱のこもった声でビシッと言い放つと、市川さん含めその場にいた女子から拍手が起きた。

 そして、何故か私の熱弁は他の座席に人たちも聞いていたらしい。いつの間にか拍手の波は私のクラスを満たしていった。

 しばらくはその余韻に浸っていたけれど、流石に恥ずかしくなった私は顔を赤らめてそそくさと弁当を食べ進める。ずっと話していた所為で、昼休み残り十分というところで弁当が半分以上も残っている。


「はぁ~……何か目から鱗が落ちた気分だよ。メールで送ろうとしていた私は大馬鹿者だー!」

「うっわ、メールとありえねー。ウチは乙女らしくラブレター送るつもりだけど?」

「いやいやいや! どんだけ前時代的なのってお話っしょ。今時ラブレターで男は喜ばんよ」

「そーか? ラブレター貰って喜ばない男とか男じゃねーし」

「それ言えてる~!」


 私の話を契機に一気に姦しくなった他の四人。話に入り込む隙が見当たらず、そもそも弁当を食べなければならない私は話を聞きつつ黙々と箸を動かす。


「ねぇ、川本さん。ちょっと話あるんだけどさ……いいかい?」


 すると、私の背後から突然声が掛かった。一応は聞き覚えのある声、おそらくクラスメートの一人。

 箸を止めてご飯を咀嚼すると、すぐに飲み込んで声の主へと振り返る。そこに立っていたのは、私のよりもかなり背の小さい男子だった。

 少し赤がかった黒髪は校則に引っかかるのではと思うほど長く、そんな前髪を赤のピンで留めている。いかにもチャラそうなこのチビ男子、確か……。


「どうしたの、柿崎くん」


 柿崎 悠(かきざき ゆう)、このクラスになったときは隣の席に居たっけ。成績は芳しくなく、授業態度もそれなりに悪い、私の中では不良に近いものとして位置づけられている存在。

 突然のお声に少し警戒心を滲ませると、柿崎君はそこそこ人の居る教室でこんなことを口にした。


「えっとさ、ちょっと付き合ってくれない? ……一本桜まで」

「…………え?」


 クラスの時間が止まった気がした、そんな昼下がり。

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