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第十四戒「魔道。焔の咲く丘」
「例えばの話だけどさ」
次なる目的地への道すがら。
魔女カンナが、旅の同行者に対して唐突にぽつりと呟く。
「一体なんなのかしら? 藪から棒に」
まるで独り言のように。
或いは、誰かに対し、何かに対して宣言するかの如く。魔女は続けて言う。
「私がちょっち《本気》を出したらさぁ、どうなると思う? ねぇねぇ、どうなると思う?」
「はぁ? 全く持って一体全体何言ってくれちゃってのかしらね、この年増ちゃんは。意味不明にも程があるわ、うん」
その言葉のどこまでが本気なのか? 真意を測りかねるカエデは、露骨に不信感を募らせつつも件の魔女を冷たい視線で睨みつける。
「べっつにぃい~。深い意味はないよん。ただねぇ…」
対するカンナは、冷徹なる視線にもめげずへらへらと妖しい微笑を浮かべる。相変わらず何を考えているのか分からない、まるで真意を覆い隠すようにして。
「ただ? ただなによ! そこまで言ったらなもったいぶらずに全部仰いなさいな、このお間抜けちゃん!」
「… 私は、誰にも止められないよって話。本気の私は、誰にも止められない。きっと… アンタでもね」
「!? 年増ちゃん、何を言って」
忠告のつもり?
カエデは、そのセリフをすんでのところで飲み込み、颯爽と前を往く彼女の後姿をただ茫然と見つめる。
果たしてカンナのその発言は、その言葉は一体何を示唆していたのか。
そう遠くない未来。カエデは痛感する事となる。その身をもって、痛いほどに。
「ところでさぁ~、ツンデレウサギちん。なんかさぁ… 暑くない? ぶっちゃけここ、暑くね? ね?」
「はぁ~? 今度は暑いですって? あなたという人間はどうしてそう、いちいち落ち着きが無いのかしら。超年増ちゃんの癖して。ねぇ、サイユーもそう思うでしょ?」
カエデは、すっかり傍観を決め込んでいた筈の彼女の半身たる生きた鞘を、無理やり巻き込む形で渦中に引き込む。
当然、鞘に顔はおろか表情すらないものの、半ば辟易したように、憮然とした雰囲気を纏いながら件の鞘が応える。
『ヤレヤレ。テメーラノミニクイノノシリアイノホウガ、ヨッポドアツクルシイ、ゼッ!』
崩壊寸前とも言える異色のパーティーは、相も変わらずその奇妙でギリギリな秩序を保ちながら、今日も今日とて前へと進む。
お互いの利害の一致、目的の一致だけが彼女らを幽かに繋ぎ止めながら。
END