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「それで、どうだったのにゃ?」
トバリに見送られ、神殿を後にした二人。
日が傾きかける中、廃墟の街グレイヴヤードからの離脱を図り歩みを進める最中、灰色猫がその愛弟子にそう尋ねる。
「はひ? どうって。何を言ってるんですか師匠! 師匠だってずっとあの場に居たじゃないですか、まぁ猫は被ってましたけどね」
「… ふむ。一応、成すべき事は成したようだし。今更だけど種明かしをするにゃ」
「種、明かし? 何故でしょうかねぇ? ナナ、その話の続きを物凄く聞きたくない気がするのですが」
「にゃーは、別段猫を被っていたわけじゃないのにゃ。好きでだんまりを決め込んでいたわけじゃないのにゃ。つまり、《誰も見えなかったし何も聞こえなかった》から、あの場では、ああやって黙っている事しか出来なかったのにゃ。成り行きを見守る事しか出来なかったのにゃ」
「え? あは、あははは。何を言ってるんですかねぇ? 師匠ってば、ナナを脅かしても何の特にもなりませんよぉ?」
「だから事前に聞いたじゃにゃいか。ニャニャイロは《幽霊》を信じるかって。にゃーにとっては、ちょっとがっかりだったにゃ。ほら、猫って幽霊が視得るとか言われているじゃにゃいか。だから少しは期待してたんだけどにゃー。案の定、にゃーには、にゃにも視得なかったよ」
瞬間、ナナイロは勢い良く元来た道を振り返ってみせる。
だがしかし、そしてしかし。
ある筈の神殿が。先ほどまで確かにそこにあった筈の神殿が… 跡形も無く。まるで最初から存在していなかったかのように、消えていた。
「あ、あの、その、し、し、師匠? ホーラク師匠? 神殿が。し、神殿が、綺麗さっぱり、な、な、無くなってますねぇ?」
「だからこそ。何百年もの間、あの椅子はそこに存在し続ける事が出来たんだろうにゃ。そうやって、椅子は長年に渡り守られ続けてきた、そんな都市伝説。なんてにゃ」
「あんんんんんんんびりぃいいいいいーばぼーー!!?? ばぼばぼー!!!???」
少女の叫びは、オレンジ色の斜陽と共に、地平線の彼方へと沈んでいく。
迷える者へ啓示を与える為に出現した一脚の古椅子は、その神殿そして守り手と共に、この世界の理の対岸、そう、彼岸の彼方へと至る… また再び、迷える者がこの地を訪れるその日まで。
彼岸の椅子、そしてその守り手トバリ=シルバーテイルにより、自らの兄と束の間の再会を果たしたナナイロ。
しかし、その再開の意味する所は、兄の死という彼女の予期せぬものだった。
そんな兄が去り際に残した啓示の言葉《琥珀色の大図書館》、そこを次なる目的地と見据えた一人と一匹は、止まることなく歩みを進める。
その先にて彼女を待ち受けるもの、それは未だ闇の中。
彼女達の針路は、まだ戒かれない。
第十三戒《了》