表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノロトキ!  作者: 汐多硫黄
第十三戒 「残響。彼岸へ至る椅子」
93/107

13-7

「それで、どうだったのにゃ?」


 トバリに見送られ、神殿を後にした二人。

 日が傾きかける中、廃墟の街グレイヴヤードからの離脱を図り歩みを進める最中、灰色猫がその愛弟子にそう尋ねる。


「はひ? どうって。何を言ってるんですか師匠! 師匠だってずっとあの場に居たじゃないですか、まぁ猫は被ってましたけどね」

「… ふむ。一応、成すべき事は成したようだし。今更だけど種明かしをするにゃ」

「種、明かし? 何故でしょうかねぇ? ナナ、その話の続きを物凄く聞きたくない気がするのですが」

「にゃーは、別段猫を被っていたわけじゃないのにゃ。好きでだんまりを決め込んでいたわけじゃないのにゃ。つまり、《誰も見えなかったし何も聞こえなかった》から、あの場では、ああやって黙っている事しか出来なかったのにゃ。成り行きを見守る事しか出来なかったのにゃ」

「え? あは、あははは。何を言ってるんですかねぇ? 師匠ってば、ナナを脅かしても何の特にもなりませんよぉ?」

「だから事前に聞いたじゃにゃいか。ニャニャイロは《幽霊》を信じるかって。にゃーにとっては、ちょっとがっかりだったにゃ。ほら、猫って幽霊が視得るとか言われているじゃにゃいか。だから少しは期待してたんだけどにゃー。案の定、にゃーには、にゃにも視得なかったよ」


 瞬間、ナナイロは勢い良く元来た道を振り返ってみせる。

 だがしかし、そしてしかし。

 ある筈の神殿が。先ほどまで確かにそこにあった筈の神殿が… 跡形も無く。まるで最初から存在していなかったかのように、消えていた。


「あ、あの、その、し、し、師匠? ホーラク師匠? 神殿が。し、神殿が、綺麗さっぱり、な、な、無くなってますねぇ?」

「だからこそ。何百年もの間、あの椅子はそこに存在し続ける事が出来たんだろうにゃ。そうやって、椅子は長年に渡り守られ続けてきた、そんな都市伝説。なんてにゃ」



「あんんんんんんんびりぃいいいいいーばぼーー!!?? ばぼばぼー!!!???」



 少女の叫びは、オレンジ色の斜陽と共に、地平線の彼方へと沈んでいく。

 迷える者へ啓示を与える為に出現した一脚の古椅子は、その神殿そして守り手と共に、この世界の理の対岸、そう、彼岸の彼方へと至る… また再び、迷える者がこの地を訪れるその日まで。


 


 彼岸の椅子、そしてその守り手トバリ=シルバーテイルにより、自らの兄と束の間の再会を果たしたナナイロ。

 しかし、その再開の意味する所は、兄の死という彼女の予期せぬものだった。

 そんな兄が去り際に残した啓示の言葉《琥珀色の大図書館》、そこを次なる目的地と見据えた一人と一匹は、止まることなく歩みを進める。


 その先にて彼女を待ち受けるもの、それは未だ闇の中。

 彼女達の針路は、まだ戒かれない。

 


第十三戒《了》


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ