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出発から1時間。
二人は、進路を東へと定めひたすら歩み続けていた。
「大変です、カンナさん!」
「ど、どーしたん? やっぱりまだ傷跡が痛むん?」
「… もう疲れました」
「はは、にゃははは、そうなんだ。じゃあちょっと休憩しよっか?」
「冗談ですよ。予定通り、村まで休憩なしで行きましょう。ちなみに、そのカゴミ村では昨日からお祭りが開催されてるらしいですし」
セツリが、ひたすらに前だけを見つめながら呟くようにそう言った。
「お祭りかー。いいねいいねー、おさ」
「お酒は、ほどほどにしてくださいね。いくら祭りだからと言っても、僕らの村とは訳が違うのですから」
セツリが慣れた口調で先回りし、釘をさす。
「うぅ、わかってるよぅ。セツリのいぢわる… ところでセツリ、さっきから何読んでるの?」
「ああ、地図ですね。というか観光ガイドです。出発の前にコクーンで買っておいたのですよ。言いたくありませんけど、僕達二人とも方向音痴でしょ?」
「確かにそうだけど、何だか緊張感がないね」
「カンナさんが一緒にいる時点で、そんなものは皆無です」
「いやー、あっしはいいと思いやすぜー…… ほら、その、セツリと、で、デート」
「そろそろ行きましょうか?」
「聞けやぁああああああああ」
カンナの叫びは、青空に虚しく響き渡った。
空は快晴。二人の旅立ちを祝うような、そんな雲ひとつない快晴。
彼らの旅は、まだ始まったばかり。
◆
それから数時間、何とか最初の村、カゴミ村へと到着した二人。
が、その雰囲気は、二人が想像するソレと大きく食い違っていた。何故なら…
「セツリ。この村、祭りやってるんだよね? 私にはどう見ても葬式会場にしか見えないんだけど」
「ですね。どう見ても祭りって雰囲気じゃない。念のため注意して行きましょう… って、言ってる側からもういないしカンナさん!」
セツリから数メートル先、カンナは第一村人を早々に発見し、嬉々としてインタビューを試みていた。
「スイマッセーン、この村って確かー昨日からお祭りやってるんですよね?」
第一村人もとい、カンナに話しかけられた村人は、露骨に迷惑そうな顔をしつつ、答える。
「お前、旅のもんか? 残念だったな。今年の神礼祭は中止だ」
「えー!? なんでだよー。あんまりだよぅ。私のお酒ー」
「酒? 神聖な祭りで酒目当てとは、この不届き者め」
そんな二人のやり取りを、最初こそ他人のふりして見守っていたセツリだったものの、不穏な雰囲気を感じ取り慌てて間に割って入った。
「申し訳御座いません。連れの者が失礼な発言をしてしまったようで、本人に代わってお詫び申し上げます。お察しの通り、この人… ちょっとアレなもので」
「ふん。まあいい。どちらにしても祭りは開催されないんだからな」
何か言いたげなカンナの口をしっかりと押さえつつ、セツリが続ける。
「祭りが開かれない? 今年は何か特別な理由でもあるのですか?」
「村長の娘、つまり巫女が病気に掛かっちまってな。だが、これ以上部外者であるお前らに言うことは何もない」
ピシャリとそう宣言されてしまっては喰い下がることも出来ず、二人は素直にその場を後にした。
第一村人から十分距離を取った後、カンナが悪態をつく。
「なんだよもう。感じ悪いんだから」
セツリは村を一瞥したのち、溜息をついて答える。
「さっきのはカンナさんが全面的に悪いですよ。それに、村人達だって好き好んで祭りを中止しているわけじゃなさそうですし、巫女が倒れたって話も何だか気になります」
「それって病気かな~? それとも」
それとも呪い?
最後まで言わずとも、彼女が言いたいことはよく分かった。
「可能性はありますね」
「ここで会ったも何かの縁。いょし、いってみようセツリ。誰の為でも無い、酒のために!」
「最後の一言は聞かなかった事にします。でも行くってどこに行くんです? 僕達村長の家はおろか、この村にだって初めて来たんですからね?」
「行き当たりばったりで!」
「胸を張って堂々と宣言する事じゃないですよね、それ。カンナさんの場合、そもそも張る胸も無いんですけどね」
「女のテキッ!!!」
二人は一先ず村長の家を探しながらも、村を回って情報収集をすることにした。
「僕とカンナさんの集めた情報をまとめると… 今年は村長の娘が件の巫女に選ばれたものの、突然の病に伏してしまう。が、1度決定した巫女を選び直すことが出来ないという決まりがあり、今年の祭りは中止せざるを得ない状況。そして、問題の村長の娘の病状は…… どうやらただの病気ではないらしい。こんな感じでしょうか? やはり僕らは部外者という事で、核心に触れられなかったのが口惜しいですが。その上、カンナさんは殆ど役立たずでしたし」
「zZZ」
「寝るな! 今のシーンは、どう考えても寝てごまかせる場面じゃありませんからね?」
「てへ♪」
「… イラッ」
「うわーん、セツリがイラッとか擬音をわざわざ口にするくらい怒ってるー」
「ゴホン。とにかくですね、何とか村長の家も聞き出せましたし、まずは行ってみましょう。もし呪いが関わっているのだとしたら、僕達で役に立てることもあるかもしれません」
セツリにしては珍しく、自ら他人と関わり合いになろうとしている。
そんなちょっとした変化が嬉しくて、ついつい笑顔になってしまうカンナ。
「うんうん。おねーさんもついてるし、はりきっていってみようぜぃ」
END