12-7
DATE:† 曇り。
世界が混乱してる。
石化、星の無い空、空飛ぶ暗黒。
まだ限られた一部の地域だけの現象だけど。皆おびえてる。
「アラヤ」が言うには、あのお節介解呪師がこの件に関与してるとか。
それってつまり… ボクのせい?
やっぱり、あの場で殺しておくべきだったの?
この状況は「アラヤ」が望んだ結果なのか、そうじゃないのか。
ボクには、見守る事しかできないんだ。
◇
DATE:! 雨。
世界がどうなろうと、ボクの任務は続く。
相変わらず、ボクと「ササキさん」との二人旅。
二人での旅は、慣れている筈なのに。それなのに少しだけ、ほんの少しだけ。
どこか寂しいと思ってしまったのはここだけの内緒だ。
◇
DATE:( 晴れ。
この頃「ササキさん」の食欲が無い。ボクの胸は、不安でいっぱいになる。もう、何も手につかない。
◇
DATE:) 曇り。
「ササキさん」の毛並みが悪くなってきたようだ。僕に出来る事は何か?
件の反応は薄い。このまま、観察と看護を続けることだろうか。
◇
DATE:= 雨。
「ササキさん」が凄く痩せてしまった。見た目にも弱ってきていることが良く分かる。
僕の声は、もはや届くことも無い。そんな事実が、どこか悲しい。
◇
DATE:0 雨。
「ササキさん」の目は、もう見えていないのかもしれない。物を噛む力も、殆ど残っていない。動きも緩慢だ。
残念ながら、やはり間違いはないらしい。ここから先は、互いに覚悟が必要になって来る。
◇
DATE:+ 晴れ。
「ササキさん」は1日中寝ていることが多くなった。起き上がる気力がないのだろう。
それは誰にとっても言える事で、僕にとっての辛く長い時間は、続く。
◇
DATE:2 晴れ。
「ササキさん」が突然痙攣をおこした。
見ていてとても辛くなる光景だ。けれど、最後まで目を逸らしてはいけない。僕は、必死にそう訴える。
― 《以降。ページが滲んでいて読めそうに無い。読み取れるワードはたった一行》 ―
ありがとう「ササキさん」
◆ ◆ ◆
結論から言えば。ササキさんは死んだ。寿命だったんだ。
この頃のボクはと言えば、すっかりショックを受けてしまって。途中から任務を放棄して閉じこもってしまっていた。
世界がどうなろうと、ボクに対する評価がどうなろうと、そんな事はは心底どうでも良かったんだ。ボクの世界の中心には常にササキさんが居て、それがボクを構成する殆どの要素だったから。だからこそ。きっと今頃のボクは、廃人同然になっている筈だったし、事実そうなるべきだった。
けど、そうはならなかった。そうはならなかったんだ。
《彼》は、いつの間にかボクの隣に居て、ずっとずっとボクを励ましてくれていた。ボクだけじゃない。彼は、ボクとササキさんの両方を励まし、看護してくれた。代わりに日記の続きまで書いてくれたのはどうかと思うけど。今、この日記を読み返しても涙が止まらなくなるのは何故だろう。
そういう感情を抱けるようになったのは、ササキさんのおかげであり、ボク自身が変わったからだって、彼は言う。
だから、だからこそ、この日記の最後はありがとうで締めくくられているんだ。
世界が変わって、ササキさんが死んで、彼と再会した。
何の目的で、彼は組織へとやって来たのか?
彼とアラヤは、これから一体何を成し遂げようとしているのか?
そして、何故、彼は独りなのか?
正直言って、ボクには良く分からない。
ボクに分かる事があるとすれば、それはいつも通りたった一つだけ。
ボクはこれからも彼の《監視役》であり、これからは《ボディーガード役》でもあるって事。
お節介解呪師が、本当に《星の白夜》の原因なのか? この世界の混乱の原因なのか?
そんな事は、ボクにとってどうでも良い事。
だって。
目まぐるしくも変わるボクの人生は、ササキさんに変えてもらったこの人生は、まだまだ続いていくのだから。
これから先、ボク達の未来は、きっとどうしょうもないくらいに闇の中。
だからこそ。ボクの明日は、まだまだ戒かれないんだ。
第十二戒《了》