11-3
やがて、周囲が黄昏色に霞み始め星が瞬きを覚える頃。
昼と夜との境界線。
二年間と言う時間が、多くの人、モノ、価値観、概念を変えてしまったと言うのならば。
或いは《これ》も、その範疇に含まれるのかもしれない。含まれてしまうのかもしれない。
単純に線引き出来ない関係の二人の元に。そう、まるで、そんな二人に惹き付けられるようにして… 《彼ら》が姿を現す。
空気を歪め、静謐を濁す。
星々を霞め、摂理を乱す。
招かれざる境界の外。異形の侵略者達による、落日の強行軍。
「… 年増ちゃん?」
先ほどまでとは打って変わって、その表情に鋭さと警戒の色を覗かせるカエデ。
「分かってるって。あー、こんちくしょー。やっぱさぁ、あんたと一緒に居ると碌な事が無いぜー」
「はぁ? これもカエデちゃんのせいだって言うの?」
「だってさぁー、あんた、なんちゃって闇の巫女なんでしょー? お仲間ってやつじゃないの?」
「ふざけるのはその年齢だけにしなさいよ、この超超年増ちゃん!! あんな穢れた暗黒と、カエデちゃんの無垢なる闇を同一視しないで頂戴な!」
「冗談だよぉ。ってかさぁ、そんなに怒らなくてもいいのにぃ。あーあ、セツリの愛ある突っこみが懐かしいぜぇ…」
今、そこに迫りつつある脅威でさえ意に介さない二人。
そんな二人に対して、諦めモード全開で思考を停止しただの鞘と化していたカエデの常識鞘たる相棒が、この事態を見過ごせるわけも無く慌てて苦言を呈す。
『オイコラテメーラ! イツマデグダッテルツモリダ。ヤツラガクル、ゼッ!』
そんな一言を切っ掛けに。
カンナは懐から杖を、カエデはその相棒たる腰の鞘に手を掛け、先程とは違う正真正銘の戦闘態勢を見せる二人。
「しかしまぁ、もてる女は辛いね~… アンシリーコートの分際でこの天才魔法使いのカンナ様にたてつこう何て、生意気だぞっ!」
《アンシリーコート》
別名、境界の外とも呼ばれる人間でも動物でも精霊の類でも幻獣でさえも無い、この星の自然界の枠から外れた異形の存在。
そもそも生物であるかどうかすらも定かではない、生命のカテゴリーを完全に逸脱した理の他。
二年前の星の白夜以降、この世界に顕現を果たした暗黒の類。それは、日暮れを待って気まぐれに人々の前に姿を現し、戯れに生あるもの襲う暗黒の化身。
生態として、人気の多い村や街などに現れる事は稀である一方で、特に、魔法使いや巫女などの強い生命力を持った人物の前に頻繁に姿を現すという。
その姿は千差万別であるものの、多くは蝙蝠のような翼と漆黒の皮膚を持った顔を持たない人影のような姿かたちを持つ。
「無駄に数だけは多いわね。こうも固まってちゃ、いちいちやりづらいわ、うん。年増ちゃん、ここは一旦二手に別れましょう」
「りょーかい。いっちょ大暴れしてやりますかっ!」
一度だけこくりと頷きそう宣言したカンナは、敵を引き付けるため、一人全力で明後日の方向に向って走り出すのだった。
END