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翌日
「報告のため、一旦本部へ帰還するよ」
朝一番、旅支度を済ませたシノノメが手短にそう告げる。
「えっ!? そーなの? なんだよーシノちゃん。水臭いぜー、昨日のうちに言ってくれれば盛大な送別会したのにぃ」
「何度も言ってる、ボクは馴れ合いが嫌いなんだ」
そう言ってそっぽを向く少女。
「シノちゃんってば、相変わらず素直じゃないなーもぉ。寂しくなったらいつでも帰ってくるんだぞー、おねーさん待ってるからにゃ」
昨日のセツリの言葉通り、その体温調節を行ったことですっかり元気を取り戻し、冬眠から目覚めた相棒がケージの中で元気に動き回る。
そんな様子をさり気なく確認しながら、セツリが言う。
「シノノメさん、最後に僕からも一言だけ。ササキさんを… 大切にしてくださいね。まぁ、言われるまでも無いとは思いますが」
彼女の背中をばしばしと叩きながら、カンナが彼女を送り出し、セツリもまた大きく手を振る。
途中、二度ほど二人の元を振り返りながら、シノノメはWUOの元へと、アラヤの元へと戻っていく。
この先再会を果たす事が出来るか、そして、どういった形で再会する事になるのか。総ては、神のみぞ知る。
―― だが、物語はこれで終わらない。
そんな赤毛の少女と入れ替わるようにして、とある一人の男が、セツリとカンナの元を訪れる。
「緊急につき、挨拶抜きで失礼します。解呪師カイドウ=フォルスターの遣いで参上致しました。セツリ=ブラックハート様とお見受け致しますが、間違い御座いませんでしょうか?」
「はい、確かに僕ですが。カイドウさんの遣い? でも、どうしてこの場所が」
「… いやいやセツリ、それより用件だよ用件。一体、こんなとこまで何の用事があってやって来たのかが重要でしょ」
カンナの言葉に従うようにして、カイドウの伝令と名乗るその男は、あくまで冷静に淡々と殊更必要最低限だけを手短に告げる。そんな態度が彼の言う緊急と言う言葉にある種の説得力を持たせる。
「カイドウ=フォルスターより緊急の言伝が届いております。つきましては、セツリ様には取り急ぎこの先のとある街に向かって頂きたい。詳しい内容は、そこでお話致します」
この場において、それ以上を語るつもりは無い。伝令は、そんな雰囲気を纏いながらも二人の反応を窺う。
「気のせいかな。セツリ、何だか私、すごく嫌な予感がするんだけど」
「確かに気になる点は多々あります。ですが、ここで議論をしていても仕方ありません。とにかく、まずは、その街に向かいましょう」
こうして、二人と一匹の旅はまだまだ続いていく。
WUOの監視役シノノメ=レッドブーツと別れた二人は、カイドウの遣いに導かれ次なる街へと赴く事となる。
この先二人に待ちうけているもの、それは一つの《分岐点》
彼らの運命は、まだ解かれない。
第八解《了》