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ノロトキ!  作者: 汐多硫黄
第八解 「赤雷。日傘の訪問者」
54/107

8-3

 

 その肩書きの如く、シノノメはその日丸々一日を《監視》する事に費やした。

 具体的に何を行動するでもなく、ただただ監視のためだけに。

 

 その出会いこそ最悪の印象だったものの、1日の時を一緒に過ごした事でその警戒心がほんの少しだけ解れた為か、或いは持ち前のその性格故か。カンナはシノノメに対して溢れんばかりの好奇心をぶつけていく。


「ねぇねぇ、そのケージ。ずっと左手に提げてるそのケージってさー、何が入ってるの?」 

「教えない。それに馴れ馴れしくしないでよ、ボクはあくまで監視官だぞっ」

「何だよぅ、けちんぼ!」


 時刻は夕暮れ時。辺りは一面の黄昏色に染まりつつある。今日の業を為し終えた旅人達は、来るべき闇に備え行動を開始する


「カンナさん、今日はここらで野営しましょう。シノノメさんもそれで構いませんか?」

「おっけーだよセツリ」

「構わない、ボクはどこででも寝られるから」

 そんな二人のセリフに対し一度だけ頷いたセツリは、手馴れた手つきでその準備を始める。


 キャンプに合わせ周囲で薪を集めて廻るカンナと、そんな二人の様子を変わらずじぃーっと監視しつつも、件のケージをガサゴソ弄り回す素振りを見せるシノノメ。

 そして。

 先ほどから彼女のソレに興味津々だったカンナが、そのチャンスを見逃す筈も無く。薪を集めつつもじりじりと彼女に近づいていく。

 

 監視役らしくなく。カンナのそんな邪な野次馬根性丸出しの思惑に気づく事無く、そっと岩陰にその身を隠しつつも、シノノメはケージの中身を開放する。肩書きも職務も関係なく、その時だけはその瞬間だけは、年相応の少女の顔を携えながら。

「出てきていいよ、ササキさん」

 

 ササキさん。彼女からそう呼称されケースから這い出てきた人物、否、生物は…


「へぇー、ハムスターかぁ。うんうん、良いじゃん。WUOの監視役だなんて言うからどんな堅物かと思ってたけど。にゃはは! やっぱりチミもおにゃにゃのこ、なんだねぇ」

 しまった。彼女がそう思った瞬間、時既に遅し。カンナはしたり顔で、大事そうに小さなハムスターを抱えるシノノメの様子をばっちりとその眼に焼き付けた後。全ては後の祭り。

 だが、腐ってもWUO監視役であるシノノメ。せめてはとばかりにその怒りの矛先を文字通りカンナへと向ける。彼女の日傘はどうやら仕込み傘だったらしく、その柄を引きぬくと同時に鈍く煌く刀身が露になった。カンナがそれを目視するとほぼ同時に、居合抜きのようにその切っ先は既に首元へと突きつけられる。

「誰かを監視するのは、ボクの仕事だぞっ」

 そんな言葉と共に、刃先を脅すようにさらに突き立てる監視役の少女。そんな状態にも拘らず、恐れることを知らぬカンナは、慌てるどころか尚も少女を煽る。

「ふふん。監視役だからって自分が監視されていないとでも思ったら大間違いだぞ、きみぃ… ぷぷっ、ってかそのペットのネズミちゃん、ササキさんって言うの? かっわいぃー」

「… う、うるさい! こんなの、ペットじゃない。ただの…」

「ただの?」

 一体どちらが監視する側なのか? すっかり場のペースを握ったカンナは尚も追求を続ける。

「ひ、非常食?」

「うへぇ、食べるのかよぅ。まぁまぁ冗談はさて置きさぁ、ソレ、おねーさんにも触らせてよー」

「やだ、絶対ヤダ」

「けちんぼ!!」


          ◆


 星々の瞬きが頭上を覆い、霞舞う丘に闇が落ちてくる。それぞれの思惑を募らせながら、それぞれの夜が更けていく。

 焚き火の赤き炎に照らし出されるのは、二人と一匹。セツリお手製の夕食を摂りつつも、妖しくも美しく輝く月光の下で一日の終わりを迎える一行。


 そして、そんな彼らから程なく離れた岩陰にポツリとその身を寄せる監視役の少女が一人。 


「今夜は冷えます。あちらで一緒に暖まりませんか? 風邪でもひいたら監視どころでは無くなってしまいますよ」

 セツリは、宵闇にひっそりとその存在を溶け込ませている赤の少女に優しく語り掛ける。

「馴れ合いは、必要ない」

「ふむ、そうですか。ならばせめてこれを。僕が作った夕食とハムスターの… 失礼、ササキさん用のご飯です。と言っても、ベルにいつも食べさているものと同じものですけど」

 そう言って今夜のメニューである煮込みシチューと、ベル用のエサである干肉と果物、若干の生野菜を差し出すセツリ。

「い、いらない」

「本当に?」

 当然、携帯食料を用意していないわけでは無かったものの。その芳香と立ち昇る湯気は、シノノメの感情を、年相応のソレを大きく揺さぶる。

 逡巡の後。差し出されたそれらの食物とセツリの顔を交互に見比べながら、とうとう観念したように少女が呟く。

「… ハムスターにとって動物性たんぱく質は2、3日に一回少量でいい。だから、果物と野菜… 貰う… ぁ、あと、シチューも」

「ええ、勿論ですよ。それに、気が向いたらいつでも此方にいらしてください」

 持ち前のポーカーフェイスを柔和に崩し、にっこりと笑いかけるセツリ。対して、やはり何か言いたげな不満顔のシノノメ。

「お礼は、言わない」

「問題ありません。僕が勝手にやっている事ですから。それに、僕は基本的に夜眠る事がありませんので、何かあったら遠慮なく声を掛けてくださいね」

「… お節介」



 それぞれの想いをその胸の内に秘めながら、それぞれの夜が明けていく。


END

 

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