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ノロトキ!  作者: 汐多硫黄
第八解 「赤雷。日傘の訪問者」
53/107

8-2

 

 件の狼を丁重に埋葬した二人は、改めて日傘の少女と対峙する。


「もしかして、怒ってる?」

 鮮血の様に紅い日傘の下にその顔を隠しながら、少女がそう尋ねる。

「怒ってるに決まってるでしょーが! 何で殺したんだよぅ、セツリが解呪するところだったんだぞ!」

「別に、それがボクの仕事だからだよ」

「仕事? っていうか、そもそも誰なんだよ。こんにゃろー、ボクっ娘の癖しやがってぇ。名を名乗れぃ!」  

 鼻息荒く興奮気味にそう訴えるカンナと、どこまでも淡々と受け答える日傘の少女。尚もその顔を日傘で遮るようにして隠すと共に、そのもう一方の手には小さなケージが提げられていた。 

「いいよ、普通そう言った方が最初に名乗るべきだけど」

 恐れる事を知らぬ日傘の少女は、カンナを煽る様にしてそう吐き捨てた後、その顔を日傘から白日の下へと晒す。


「ボクの名前はシノノメ=レッドブーツ、《WUO》から派遣された監視役」


 WUO。世界反解呪機構。

 

 そんな反解呪を掲げる団体からの刺客。その監視役。かつて、トライアの森にて二人に迫った黒服達であり、ベルを森へと解き放った元凶。トライアの森でのアラヤ=パープルハットの忠告の具現化。その化身。


 だが、二人が何より驚愕したのは少女のそんな肩書きなどではなく…


「な、なによ、その顔。傷だらけ…」

「傷、というより傷跡。継接ぎですね。それに、良く見れば顔だけじゃない、手や足にも。いたるところが継接ぎだらけ」


 そんなセツリの言葉通り。正に継接ぎだらけという言葉が正しい縫い痕だらけの少女の体。一体、どのような日々を過ごせばこんな身体になるのか。当然、並大抵の人生ではない。少なくとも、極普通の日常生活とはかけ離れた世界。十中八九、平凡な毎日ではない日々が連想される。

 彼女は多くを語ろうとしないが、少女のその姿は、言葉よりも多くを物語っていた。


「っと… すみません。僕としたが事が、女性に対して口にするようなセリフではありませんでしたね。配慮が足りませんでした」

「別にいいよ、慣れてるから」

「こ、このやろー。だからって、無意味な殺生が許されるってわけじゃないんだぞ! それとこれとは話が別なんだぞ!」


 赤毛のアルビノ。

 カエデ=ホワイトラビットのその肌が陶器のような白だとするならば、彼女の白さは限りなく透明に近い色素の薄さからくる白さであり、遺伝子疾患に伴うメラニンの欠乏による白さ。一方でその白は、彼女のくしゃくしゃな赤毛をより際立たせていた。


「落ち着いてくださいカンナさん。やはり、あのトライアの森での言葉はブラフではなかった。つまりはそういう事です。いずれこんな日が来るであろう事は予想出来た」

「うぅぅ。やっぱり姐さんの診療所で解呪しまくったのが仇になったのかなぁ」

「かもしれませんし、そうでないかもしれない。いずれにしても。僕は自分が行った事に対し微塵の後悔も無いし、それが悪であるとも間違っていたとも思っていません」

 きっぱりとそう断言したセツリは、まっすぐにWUOの少女を見つめながら尚も続ける。

「監視役と仰いましたね? 具体的には何をなさるつもりなのでしょうか。先程のナイフ捌きから察するに… 実力行使で僕等を止めに来たのですか?」

 そんなセツリのセリフに反応し、懐から杖を取り出し応戦体勢を取るカンナ。

 

 だがしかし、そしてしかし。


 いつもならばその雰囲気や空気の変化に対し機敏に反応し、セツリを護るため真っ先に警戒の姿勢を見せるはずのベルが、今日に至ってはソレを全く示さない。

 その実、示さないどころか…。


「お、可笑しいよセツリ。ベルが、震えてる!? ドラゴンが怯えるってどういう事?」

 星の子供達、有翼種、幻獣。互いに不干渉の存在であるとは言え、食物連鎖の頂点に立つドラゴンが一人の人間、それも少女に対してその恐怖を露にする。そこから導き出される結論とは?

「まさか。いや… でも」 

 そんな二人の疑問はすぐに解消される事となる。何を隠そう、目の前の日傘の少女自身によって。

「ボクがやった、ボクがバーサーカー状態のその白竜を捕縛しあの森へと放った」

 当時の恐怖がフラッシュバックしたためか、野生の本能がそうさせるのか。幼竜は、まともに少女の顔を見ることすら出来ずただ怯え続けるのみ。

「嘘でしょ…。やったんだって簡単に言うけど。アレを、あの状態のベルを捕まえるって… 私の魔法でも倒れなかったのに」

「ボクは魔法が使えない、でもドラゴンを屠る事は出来る」

 ドラゴンを、しかも狂化状態のドラゴンを倒す事が可能という事は、とどのつまり二人を始末することなど、その気になればいつでも出来る。明らかにカンナよりも年下の、そんな赤毛の少女の一見馬鹿げたそのセリフ。しかし、そのセリフの真実は実のところ脅しであるとともに、WUOからの正真正銘の最後通告でもあった。


「暫く二人の旅に同行するから、そのつもりで宜しく」 


 招かれざる訪問者。日傘を差した赤の監視官が、2人の旅に介入を果たす。


END

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