7-5
「姐さん姐さん! 次の患者さん通しちゃってもいいかですかい?」
「あぁいいぞ。おいセツリ、患者のカルテ寄越しな」
「はい。グウネせんせい」
あれから三日。
ベルの脱皮は順調に進み、事実上の後一歩、峠のところまで進展していた。
その間、診療所の大掃除と整理整頓などの片づけを終えた二人は、更に彼女の診療の手伝いをする事になった。セツリは後方事務に加えて呪いの患者に対する解呪、カンナは受付とナース。それぞれの得意分野を生かした適材適所。
「急患だ! セツリ、こっちのレベル2の患者はてめーに任せる。解呪、出来るな? アタシはこっちの骨折の患者を診なきゃなんねー、手伝えカンナ!」
「ペットが動かない? 知るか! 死んじまったもんまでは流石に面倒みきれねーよ。ってかこりゃ冬眠だろ、暖かくなりゃそのうち目ぇ覚めから絶対埋めんじゃねーぞコラぁ」
「風邪だぁ? んなもん、十分に水分と栄養摂ってめいっぱい寝とけ! 安易に薬に頼るんじゃねーよ。生物にゃ、生まれがらに持っている病に打ち勝つ力ってのがあるんだ。人間は、てめーが思う以上に強靭い生きモンなのさ。以上、午前の診察終わりっ」
◆
「こんな丘の上だし。患者さんなんて本当にくるのかにゃーって思ってたけど。意外と忙しいね、姐さん」
「あん? 相変わらず失礼な奴… と、言いたいところだが。ま、それに関しちゃ確かに謎だな。町の中にも診療所は在るし、ちゃんとした医者も解呪師も獣医も居るんだけどよ。どうしてか、こんなトコまでノコノコやって来やがる風変わりな連中が多いんだよ」
ふいに患者の途絶えた凪の時間帯、休憩室に集まった三人はほっと一息つきながらそんな四方山話を始める。
「グウネせんせいの人徳でしょう。せんせい、口は悪いですけど腕は確かですし。医者としても、獣医としても、解呪師としても。それに、存外子供達にも好かれているようですし」
「そのぶっきらぼうな口調も、実は単なる照れ隠しだったりして~、にゃははは」
「ぶふっ!?」
口にしていたコーヒーを思わず吹き出しながら、グウネが一気に捲し立てる。
「う、うっせーんだよてめーら。仕事しろ、仕事。黙って仕事してりゃいーんだよコラぁ。休憩時間終わりっ!」
仄かに赤く染まった頬を隠しながら、グウネは自身の聖域である診療室へと逃げるようにして戻っていく。そして、そんな姿をどこか暖かい視線で見送る二人。
「でもさ、ベルを拾ってくれた子供達も、匿って症状を診てくれた姐さんも、皆良い人達で良かったね。もしこのボタンがどこか一ヵ所でも掛け違っていたらと思うと、ちょっとゾっとするもん」
「そうですね。そうなれば、こんなナース服姿のカンナさんを見ることも無かったわけですし」
やるからには完璧に!
そんなセリフと共に、カンナはどこからかわざわざ衣装を調達してきていた。いつもの魔法使い達の正装であるローブ姿から、正反対の井出達とも言える純白のナース服… らしきものを身に纏ったカンナ。その姿は白衣の天使、と言うよりもさながらコスプレ一歩手前のあざとさが見え隠れしているようで。
「ふぇ!? … にゅっふっふっふ。くるしゅうないぞセツリ君。存分におねーさんのナース服姿を脳裏に焼き付けるが良い。ね? ね? 似合うでしょ?」
そう言って、いつもより短めの、その純白のスカートをひらひらとたなびかせ、絶対領域をチラリと露出させつつ挑発的な視線を投げかけるカンナ。
「………… ええ、まぁ」
「ちょ、ちょっと今の間は何なのさ、セツリぃ! もっと言うべきセリフがあるでしょー? 感想プリーズ!」
「知りませんよ。さぁ、そんな事より僕らも仕事しましょう、仕事! か、患者さんがきっと僕らを待っている!」
捨てセリフのようにそう捲くし立て、足早に診療室へと戻るセツリ。
どうやら、その顔を赤く染めたのはグウネ医師一人では無かったようだ。
END