6-7
だが、救世主は現れる。
地獄に仏。
そんな均衡を壊すかのように、颯爽と登場する人物が一人。
「やれやれ、やっぱりまだまだね。小鹿ちゃん」
無事に解呪を終え、その視力を取り戻したカエデが、確かな足取りで二人の下へと戻ってくる。そう、《光の種》をその手に持って。
「村長ちゃん、これが光の種でしょ?」
その名に違わず、仄かな蛍光を放つ植物の種状の小さな球体。
「か、カエデさん! そ、そそ、それを、どこで!?」
「カエデちゃんの服の中にくっついてたのよ。まるでくっつき虫みたいにね… 流石は種、ね。恐らくだけれど、あの影デュラハンが消える際に残したものなんでしょう。あの後、目が見えないのにやけに眩しいなって感じてたのよ。あぁ、これが成長した小鹿ちゃんの心の光なのね! なんて美しい! … とか、良く分からないような、小鹿ちゃんと同じく小っ恥ずかしい脳内お花畑で考えちゃってたけど、そりゃ眩しいわよね。服の中にこんなのが紛れ込んでれば」
「Oh… う、うめ、う… め…」
「時として、良い巫女ってのは運にも味方されるものなのよ。うん。ってか、梅?」
「埋めてください! さ、先ほどまでのドヤ顔の、わ、わたしを、埋めてくださいっ! 今すぐっ! 全力でっ! 地底、深くまでっ!」
清清しいほどのドヤ顔で熱弁を奮い熱く熱く語り尽くし、それが真っ向から否定された時。人は、その場で埋まってしまいたくなる生き物らしい。穴があったら入りたい。むしろ埋まってしまいたい。
炎のように真っ赤な顔で、頭を抱えながらその場で蹲ってしまうミヤビ。哀れにもつい先刻までの勢いは、もはや見る影もない。
「ま、まぁ、何にしても。ミヤビ、これで完全に合格じゃ。どうやらお主の言葉通り… 良き友を持ったようじゃな」
そう言って、カエデの手から光の種を受け取った村長は、その手でミヤビの持つ杖にその種を嵌め込んでいく。
一人前の光の巫女を示す、光の杖。合格の証。そんな杖から放たれる蛍光色の光が、ミヤビのくしゃくしゃの顔を優しく照らし出す。祝福の星の光。
「う、ぅぅ、ううえぇええぇん! わたし、わたしぃ」
「何泣いてるのよ、お間抜けちゃん? 分かっているとは思うけど、これで終わりじゃないわ。むしろ、光の巫女としてのあなたは、今始まったばかり。大切なのはこれからよ… でも、せめて今だけは言わせて。おめでとう、ミヤビ」
「びゃい!」
涙と鼻水交じりのぐしゃぐしゃの顔で、そんな返事とも取れぬたった一言の決意を口にしたミヤビ。
彼女の、光の巫女ミヤビ=ハイライトの新しい運命が幕を開けた瞬間である。
「ふふっ。それはそうと村長ちゃん。今回の護衛、その報酬の代わりと言ってはなんだけど。コレ… この光の種。一つ、貰ってもいいかしら?」
ミヤビの頭をぽんぽんと撫でつつ、カエデは懐から《二つ目の光の種》を取り出す。
「ほぅ? 光の種が二つ、か。珍しい事もあるもんじゃ。長年歴代の巫女の卵達を見守ってきたが、一度に二つの光の種が出現するなど、こんな事は初めてじゃな」
カエデの服に付着していた光の種は、一つではなく二つだった。
果たして、それが何を意味するのか? 残りの種を握り締めながら、カエデは続ける。
「カエデちゃんとミヤビの、友情の証に。ねっ? 問題無いでしょ?」
「ふむ。まぁ良かろう。これも何かの導き、なのかもしれんしの。今回娘が世話になったのもまた事実。うむ、持って行くが良い」
「… ふふっ。あ・り・が・とっ」
その鬼灯色の瞳には、どのような未来が視得ているのか。それは、カエデ当人にしかわかりえない事。
カエデとミヤビは感動の抱擁を交わした後、一晩中飽きる事無く語り合った。
巫女の事、昔の事、セツリの事。互いの、これからの事。
そして、夜は明ける。
二人のための、新しい朝がやってくる。
◆
「お世話になったわね、ミヤビ。村長ちゃん」
「お、お世話になったのは、わ、わたしの方、ですから!」
「うむ。この村にとっての恩人が、新たに一人増えた。つまりはそういう事じゃ」
ミヤビと村長。一人ずつ互いに握手を交わす。
天気は快晴。太陽は今日も人々を明るく照らし出し、優しい風がその体を撫でる。
最後に、カエデはミヤビの顔を見つめながら言う。
「頑張んなさい、ミヤビ。その強い意志があれば、あんたはきっと大丈夫。一人前の巫女としてやっていけるわ。だからこそ、カエデちゃんもミヤビに負けていられない。鞘の事… いいえ、マミーの事、真剣に考えてみる。そして、先の事ってやつを考えるわ。鞘を探し出すことが全てじゃない、その後の事。本当に、カエデちゃんがやりたい事。それを見つけだしてみせるわ! だから、その時はまた会いましょう、ミヤビ」
「びゃいっ!!」
カエデ=ホワイトラビットによる探索の旅は、まだまだ続いていく。
鞘を探す事。セツリ達を捜す事。そして、《やりたいことを見つける事》
そんな三つ目の探し物を新たに加え、彼女の旅は続く。
この先、彼女に待ちうけているもの、それはまだ闇の中。
彼女の針路も、まだ、解かれない。
第六解《了》