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ノロトキ!  作者: 汐多硫黄
第六解 「矜持。光の巫女と闇の巫女」
42/107

6-5

「む、無理ですぅ。ぜ、ぜぜぜぜ、絶対に、むりぃぃいい」 

 既に、最初から全力で逃げ腰のミヤビ。だが、そんな彼女を全力で怒鳴りつけ或いは諫める、地鳴りのように力強い雄叫びが響き渡る。


「落ち着けっ、ミヤビっ!!」


 この場にいるのはたった二人だけ。とどのつまり、その声の持ち主は当然、カエデ=ホワイトラビットその人である。

 そんなカエデの怒声に、ビクリとその小さな体を全身で震わせる光の巫女少女。

「冷静な心は、何事にも勝る防衛術よ。それは、この先のあなたにとって必要な事。まずは落ち着きなさい。いい事? ここから先は… 小鹿ちゃんがやるの。いえ、小鹿ちゃんがやらなきゃ駄目なの」


 入り口にて放ったミヤビの光の術。その光すら霞む奥の奥。そんな辺境の淵で、死を司る精霊デュラハンと対峙する少女が二人。

 光と闇。二人の少女、二人の巫女。


「まずは良く見なさい。相手を良く視るの。見るではなく視る。見極めるの!」 

 薄暗い洞窟内に咲く剣響の火花。デュラハンの、その漆黒の大剣を受け止めるのもまた、黒の剣。

 カエデは、ミヤビに対しそう必死に訴えかけながら、その護衛としての役割を全うすべく、件のデュラハンからの重く激しい一撃を受け止めていく。

 その顔に、苦悶の表情と大粒の汗を滴らせながらも。

「何が視得る? ミヤビ、あなたの光には何が視得る?」

「え、で、でも、なにって、で、です、から、首の無い」

「違う! それはただの表層、上っ面よ。目に頼っちゃ駄目、本来巫女は、どうやってその力を行使してきた? 良く思い出すの!」

「わ、わ、わたしは…」


 考える。ミヤビ=ハイライトは考える。

 目の前で死闘を繰り広げるカエデと首なし剣士の姿を見ながら、必死に考える。


 光。光の巫女。光と闇。

 闇の力の一端が重力であるならば、光の力の一端は粒子であり波動である。

 それらは、この世界において普遍的に、どこにでも存在しうる概念であり、それらの力を行使するということは、果たして何を意味するのか? 


 光と闇。光と闇から生まれ出でるもの、それは。


「……… か、げ? 影!?」

 ニヤリと、その口の端を曲げながら、カエデが哂う。

「やれば出来るじゃない! このお間抜けちゃん! だったら、だとしたら。あなたがするべき事は、たった一つ。そうでしょ?」

 

 総ては幻。幻影。光の巫女を惑わす最後の試練。


「はいっ!」

 洞窟の入り口で見せたように。一小節の、そんな短いスペルと共に祈りの所作が如く手を合わせた後、杖に力を込めるミヤビ。

 


 少女は願う。

 光を。どうか光を。もっと、もっと光を。影を打ち消す大きな光を。己と対峙し、その弱さを包み込むそんな圧倒的な光を。


 

 ― やがて。

 薄暗い洞窟の深層部が、ミヤビの放つ光で満たされていく。総ての闇をかき消すように。影と陰を覆うように。彼女の光は、優しく総てを満たしていく。

 高く掲げたその剣を振り下ろしたその瞬間、影の騎士はやがて一瞬のうちに離散する。跡形も無く。まるで、何事もなかったかのように、綺麗さっぱりと。そう、その轍に一筋の光だけを残して。


「… 美しい光。ええ、きっとそう。やっぱり、あなたにはその資格があったみたいね。小鹿ちゃん」

 幻影とはいえ、死を宣告する精霊格デュラハンと対峙したカエデは、その体力と神経を使い果たし、半ば倒れるようにしてその場で片膝をつく。

「やれやれ。たった数十合、太刀を合わせただけでこの有様。このカエデちゃんも、どーやらまだまだ修行不足のようね。うん。本当、仮にも護衛の癖に情けない。これじゃ、まるで、あの変態解呪師ちゃんみたいじゃない… の…」


 そう言いかけて、その場でゆっくりと《虚ろな》両目を閉じる闇の少女。そして、そんな彼女に駆け寄る光の少女。

 

 洞窟内は、暖かで気高く美しい、そんな荘厳なる一点の曇り無き希望の光で満たされていた。 



END

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