6-3
カゴミ村を出発して数時間。二人は、目的地である件の洞窟へと到着を果たす。
「順当に着いたわね。あれから、意外な程順調に。日も傾きかけてきたし、ここからが本番よ小鹿ちゃん… って、どうしてそんなぐったりしてるの?」
「ど、どうしてって、い、言われましても。わ、わた、わたし、体力が、もう、たい、た、体力が」
「たかが数時間歩いただけじゃないの、だらしのない。まっ、そこに関してはこのカエデちゃん。伊達にこれまで一人旅をしてきたわけじゃないってことね。うん」
それはそうとして。
そう結んだカエデは、改めて件の洞窟を見上げる。
洞窟とは名ばかりの横穴。洞穴。どこか禍々しい雰囲気を放つその洞窟は、入り来る者の勇気と資質を試すには絶好の穴場のように見えた。
「いつまでも入り口でウジウジしていられませんわ。さぁ、とっとと行きますわよ。小鹿ちゃん」
「ひゃ、ひゃいっ!」
そんな勇ましい? 掛け声と共に、二人の少女は洞窟の内部へと侵入を試みる。
光の巫女、その最終試験の始まりである。
◆
およそ、その見た目通り。
光の介在を許さぬその洞窟内部は、漆黒の闇と痛い程の静寂で満たされていた。時折響き渡るのは、闇に親しみ蠢く生物達の、そんな幽かな息遣いのみ。
「ものの見事に真っ暗ね、これじゃ全く何も見えない。小鹿ちゃん、松明とか用意してあるのかしら? もしくは火系統の魔法とか使える?」
「あ、あの、あのっ。ちょ、ちょっと待って、ください、ね」
一小節の、短いスペルと共に祈りのように手を合わせた後、杖に力を込めるミヤビ。
瞬間、常闇だった洞窟内が蛍光色の優しい光で満たされていく。
「… 小鹿ちゃん、やるじゃない。半人前とはいえ、光の巫女の名は伊達や酔狂じゃないわね」
本来、この世界における魔法とは火、水、風、雷、大地、そして聖の六行を基本としている。魔法使い達は、そんな自然界における理を操る術を身につけ使用する。だが、そんな自然界の力と異なるベクトルの力、星そのものを基軸として引き出す特殊な力が存在する。
それが、光と闇の力である。
それらの力を使用できる限られた者達を総称し、俗に《巫女》と呼ぶ。
自然の力を引き出し使用する魔法使いと一線を画し、自らを《星の根源》と同調、同和、同一視する事でそれらの力を使用する巫女。これらの感性を後天的に身につける事はほぼ不可能に近く、正に生まれ持ったギフト、才覚、才能であると言える。それらの多くは血統や血筋などによる先天性の祝福されし才能、星から祝福を受けし才能であるものの、一方では、自らの命を削る薄命の才能、その後の運命と人生を決定付けてしまう呪われた才能などと呼ばれる事もある。
「さて、と。カエデちゃんもウカウカしてられないですわ。護衛としての役割、真っ当しなくちゃね」
「お、おねがい、します。こ、恐いけど、わ、わ、わたし、頑張りますからっ」
ミヤビの力のおかげで、洞窟内の改めてその全体像が浮き彫りになる。
「この洞窟。見かけによらず相当奥まで続いてるようですわね。それで? その光の種って奴はどこにあるんですの?」
「そ、そのっ。わ、わ、分かりません」
「あっそう。まぁ、だと思いましたわ。それじゃあ別の質問、そもそも光の種って一体なんなんですの?」
ふるふると、その小さな体震わせて、体全体で意思を表示する光の少女。
とどのつまり。
「まさか知らないんですの!? このお馬鹿ちゃん!!」
どこにあるのか、ましてやそれが何なのかすら分からない。まるで雲を掴むような、影を追うような、そんな話。
「そんなのでいったいどうやって探せっていうのよ! 全く全く困ったちゃんね。《探す》のはカエデちゃんの専売特許ってわけじゃないっつーの…」
一先ず、洞窟内を奥へと進む事に決めた二人は、深部を目指すためひたすらに突き進む。
「そ、そう言えば。お父様が、こ、この洞窟内、には、幾つかの、試練があるって、言ってた、かも。し、試練って、な、なんでしょうね?」
「はぁ!? それをもっと早く言いなさいよ、このお間抜けちゃん! それって、トラップが仕掛けられてるってことじゃないの!」
「ご、ご、ごめんなさぁいいぃ。それ、それと、も、もう一つ、わ、わたし、さっき、何か踏んじゃいましたぁあ。カチッ、ってぇ~」
時既に遅し。
そんな二人を嘲笑うかの如く、試練は容赦なく彼女達に襲い掛かる。
END