6-2
「それで、カエデちゃん達はこれからどこに向うの?」
カゴミ村を出立して数分。
意気揚々と先頭を歩くカエデが、そんな彼女の数歩後ろをおずおずと着いて歩くミヤビに尋ねる。
「あ、あのっ。わ、わたしが、正式な光の巫女になるためのっ、最終試験が、洞窟へ、光の種を取りに行くこと、なのですっ!」
「ふーん。つまり、これからそれを取りに行くってわけね? 別段興味は無いけど… 小鹿ちゃんはどうして巫女なんかになりたいわけ? 種類は違えど、総じて《巫女》なんて存在は、他人のために平気で自分の人生を投げ出すような酔狂な奴らよ?」
手にしていた樫の木の杖をぎゅっと両手で握り締め、ミヤビが答える。
「わ、わたしはっ! …… 何をやってもダメダメで。い、いつも誰かに、助けてもらって、頼って、甘えて。自分じゃ、何も出来ない、そ、そんな矮小な人間でっ!」
「矮小って。まぁ、確かに小動物チックな見た目ではあるけれど」
カエデの言葉通り。彼女とそう年が違わないにも関わらず、その見た目は明らかに幼い。例えるならば、真新しいその巫女服にすら負けるような稀薄さであり、その見た目の儚さと自信の無さは、さながら明らかな経験の不足に裏打ちされた結果の賜物であると言える。
だが、そんな見た目とは裏腹に…
「でも! そ、そんなわたしに、み、巫女の適正があるって、分かったとき。わたし、凄く、す、凄く嬉しかった。わ、わたしでも、出来る事があるんだって、だ、誰かに、認められた、気がして。だから、ほ、本当は、誰かの、ため、なんかじゃなくて… じ、自分で在るために。ただ、自分で在るためにっ! 自分で在り続けるため、だけにっ! わ、わたしは、巫女になりたい、です!」
「そう… 何だか羨ましいわね。それ」
そう小声で返したカエデは、どこか遠くを見つめながら続けて言う。
「カエデちゃんもね。こう見えて実は巫女なのよ、うん」
「け、剣士さん、じゃないん、ですか?」
「うーン…。カエデちゃんの今の立場って、実は凄く曖昧なのよね。巫女って言っても、《元》だし。そもそも正式にその巫女の座を継ぐ前だったから、本当は巫女ですらなかったし。小鹿ちゃんみたいに、自ら望んでなりたかったわけでもないし。この黒刀だって、持ちたくて持ち歩いてるわけでもないし。剣の腕は、そうね、旅を続ける上で成り行き上身についちゃったって感じだし…… あれ? 自分で言うのもなんだけど、カエデちゃんって、一体なんなのかしら」
「カ、カエデさんは、カエデさんですよ。た、たぶん?」
「何故疑問系なのかしら。別に、無理に答えなくてもいいわよ、自分自身ですら分かっていないし、理解出来てないんですもん…… でも、小鹿ちゃんあなた、やっぱり良い奴ね」
語るべき事を語り終えたカエデは、再びその足を前へと向ける。
直視できない眩しさを、彼女は持っている。自分の持っていない何かを、彼女は持っている。研ぎ澄まされ、濃縮された純粋さは、時として猛毒にもなりかねない。そんな純粋さを。
カエデはただただまっすぐ、ひたすらにまっすぐ歩く。奥底に秘めた力強さと、そんな危うさを持った少女に対し、ある種の羨望にも似た感情を抱きながら。
「ところで、その洞窟ってこっちの方角であってますの? カエデちゃん達、さっきからずっとまっすぐ歩いてるだけだけど」
「あ、あの。じ、じ、実は… 逆方向、なのですぅ」
「さっさとそれを言いなさいよ、このお馬鹿ちゃん!!!」
二人の旅は、前途多難のようだった。
END