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その瞬間、彼にとって聞き慣れた声が森中に響き渡った。
「ちょっとまったぁーー。くぉら、そこのドラゴン! きっさま私のセツリになにやっちゃってんだ! セツリを襲っていいのは私だけなんだぞぉーーー」
絶体絶命のセツリの前へと颯爽と現れたカンナは杖を振り上げ、大きなプラズマ状の光線をドラゴンへと放った。
バチバチと音を上げながら、放たれた電気玉はドラゴンへと命中。一時的ではあるものの、ドラゴンの動きを止める事に成功。自称天才魔法使いの面目躍如である。
「にゅふふ、ねぇねぇ見た見た? 今の私どーだった? かっこよかった? 惚れ直した?」
「はいはい惚れ直しましたから、取り敢えず逃げましょう。ここに居たんじゃ危険です」
「おっけー」
カンナに右手を引っ張られる形で何とか森中を走り抜けるセツリ。
「でもびっくりだよ。この森、本当にドラゴンがいたなんてさ。その上、後ちょっとでセツリ死んじゃいそうなシーンだったしぃ」
そう言ってケタケタと笑うカンナ。
「確かに今にも襲われそうな展開ではありましたね。でも助かりました。あれだけ音を立てて走り回っていたので、カンナさんならきっとこちらに気づいてくれるとは思ってました」
「にゃははは、苦しゅうない。セツリ君や、もっと褒め讃え感謝してくれてもいいんだぞぅ?」
「そうですね、取り敢えずアレを何とか出来たら考えます」
そう言って遥か後ろを指さすセツリ。
そこには白い悪魔、もとい狂気の白竜がその眼を真っ赤に燃やしながら、今正に二人の元へと向かうべく立ちあがるところだった。
「うっわー、もう復活しちゃったよ」
「あのドラゴン、呪われてます。逃げながらだったので詳しく診る余裕がなかったのですが、恐らくアレは《バーサーカー》ですよ」
「げぇっ、狂化? 人間ですら性質悪い呪いなのに、ドラゴンがそれ掛かっちゃうと手に負えないレベルだよ」
バーサーカー。つまり狂化。
人として生物としての理性や思考能力を廃し、原始本能の囁き、その赴くままに肉体を動かす事のみに特化する呪い。また、副産物としてその肉体のポテンシャル強化があげられる。
「はい。しかもあのドラゴン、恐らくですけど…… 子供だと思います」
「えぇー、嘘だぁー。確かに記録上知られる竜のサイズからしたら小さめだけどさー、それでもあの大きさだよ?」
「呪いの影響だと思います。狂化の呪いは、そのレベルや種類にもよりますけど、自我の喪失、思考の単純化、肉体強化がその症状です。あのドラゴン、先ほどから僕をただ単に追いかけまわしているだけなんですよね。例えば牙を使ったり、爪を使ったり、火を吹いたりと言った行動を行わない。いくら思考が単純化されている状態と言ってもそれは可笑しい。例えるなら、じゃれているような感覚でしょうか」
「うーん。確かに子供のドラゴンは火吹けないけどさ。え? ちょっと待ってセツリ。君、まさか私達二人であのドラゴン何とかしようなんて思ってたりする?」
「流石はカンナさん。察しが良くて助かります」
ニッコリと微笑むセツリに対し、カンナは両膝をついて祈りのポーズを作り呟いた。
「あぁ神様、私のセツリ君が、いつの間にか熱血キャラになってしまいました。私はどうすればいいのでしょうか?」
「カンナさん、御巫山戯はそこまでです、竜が来ます!」
END