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翌日。
二人は町での噂の真相を確かめるため、再び森へと足を踏み入れていた。
「はぁー… ドラゴンかぁ。会いたくないにゃぁ。ただの噂ならいいのに」
あからさまにテンションの低いカンナ。
それもその筈、そもそもこのメンバーでドラゴンを捜索しようという事自体、あまりに無理のある話だった。無謀この上ない話だった。
「もっとしゃきっとして下さい。何もドラゴンを討伐しようとまでは言っていないのですから。あくまで噂の検証ですよ」
カンナとは対照的に、何故かテンションの高いセツリ。
セツリにしては珍しい。珍事。不思議に思うと言うより、明らかに可笑しいレベル。そう思ったカンナが、思い切って彼に尋ねた。
「昨日からちょっと気になってたんだけど、セツリってばやけにテンション高いよね? まさか… 変なものでも食べたのかい?」
「酷い言い草ですね。それにカンナさんだって昨日は同じもの食べたじゃないですか。でも、そうですか、そう見えますか? 僕としてはいつも通りのつもりだったのですが」
ふむ。と、考え込むようにしてじっとカンナの顔を見つめた後、セツリはおもむろにありのままの言葉を投げかける。
「実は僕、子供のころからドラゴンってやつを1度見てみたいなと思ってまして。きっとカッコいいんでしょうねー、美しいんでしょうねー、びっくりするくらいおっきいんでしょうねー」
彼の口から飛び出した迷言もとい珍言に、思わず口を開けてポカンとしてしまうカンナ。
「セツリって、やっぱり時々物凄く子供っぽい事言うよね。その見た目通りのさ。それって、ちょっとズルイよね。うん、ズルイ」
「そうですか? とにかく、気が済むまで帰るつもりはありませんから、そのつもりで」
カンナは肩を落としつつ、意気揚々と突き進む彼を慌てて追いかけた。
◆
二人がドラゴン捜索を始めてから間もなく1時間が経過しようとしていた。
二人が最初この森を通ったときは、単なる通過点に過ぎなかったため最短ルートで森を抜けていた。が、ドラゴン捜索という目的を帯びている今は、いやが上にも森内部、深部に進まざるを得ない。
近隣の住民でさえ、毎年数多くの遭難者を出すと言う迷いの森。それ故、好奇心からの探索ましてや目的なく足を踏み入れる事は断じてあり得無いという迷いの森。
土地勘のあるトライアの住人たちでさえそのような状況とあれば、森について殆ど知識も経験もない人物ならば当然…
「迷った…。完全に迷った。僕としたことが、こんな森で迷子になるなんて一生の不覚だ。しかもカンナさんと逸れちゃったし」
ただでさえ旅慣れていないセツリとカンナ。
素人同然の二人が森を探索しようとなれば、こうなることは当然だった。むしろ十中八九必然的結果と言える。
「こんなときにドラゴンに襲われたら、一たまりも無いだろうなぁ。まぁ、これだけ探して見つからなかったということは、根も葉もない噂だったというこ…」
セツリのその愚痴ともとれぬ些細な独り言は、彼の目の前から聞こえてくる、まるで地獄の底から湧き上がるような獣の唸り声により掻き消された。
彼の目の前に現れた生物。
それは紛れも無く噂通りの幻獣であり、戦闘能力のない人間一人では立ち向かう事すら叶わない、有翼種。
この世界において食物連鎖の頂点に君臨する、正に自然界の理そのもの。別名、星の子供達。
純白の巨躯に携えた美しき翼、禍々しいまでに紅く鋭い眼光。神々しさとを畏怖の念を併せ持ち、見るものを圧倒支配する異次元的存在感。
つまりは…… ドラゴンだった。
END