表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノロトキ!  作者: 汐多硫黄
第三解 「遭遇。二人と一匹」
17/107

3-3


「つ、つ、ついたにゃー」

「あくまで近場の町の宿場に、ですけどね。僕たち、このペースだと王都に着くまで後どれくらいかかるんでしょうか?」

「あー… 考えたくないね、それ。今はとにかく眠りたいもん」

 

 ここは、とある宿場町トライア。


 カンナは部屋に到着するなり荷物を乱雑にまき散らし、そのままベッドへとダイブしていた。

 呪われ無免許解呪師と、攻撃魔法しか使えない自称天才魔法使いの徒歩による二人旅。

 このところ連夜野宿が続いていたということもあり、彼女のそんな行動は、この旅が想像以上に過酷なものであるという事を如実に示していた。


「カンナさん、僕はこの町を少し診てきます。カンナさんはくれぐれもここを動かないでくださいよ?」

 はぐれたりしたら探すの面倒ですから、とセツリ。

「えーっ、私を置いていくなよぅ… って言いたいところなんだけど、実は体が言う事きかないんだ。ここで大人しくお留守番してるよ」

 

 日が沈みかけ、オレンジ色の閃光が周囲を包み込んでいる。

 時刻は夕刻。

 カゴミ村と違い、住民の数も宿場の数も、立ち並ぶ店舗の数も桁違いだった。コクーンのそれとまではいかないまでも、二人の村やカゴミ村とは比べようも無い。

 セツリは荷物を部屋に置き、身軽になった体で町の探索を始める。

 王都まではまだ長い道のりとなる。そのためにも、改めてそれ相応の準備というものが必要となってくる。

 彼の場合普通の解呪師と異なり、聖典や術式を行うための道具を持ち歩かなくても良いというアドバンテージがあり、比較的軽装ではある。

 … だが、その分カンナ所有の大量の荷物が彼を圧迫していた。

 

 最初こそカンナに中身を問いただし、もっと減らすように苦言を呈していた彼だったが、それが旅の途中でも実験を続けるものだと言われてしまっては、彼もそれ以上追求する事が出来ないでいた。カンナはセツリが能力を開花させ、呪いを発症させてからというもの、当事者とはいえまるで興味を持たなかったセツリにかわり、ただ一人、彼の時間停止の呪いを解く方法を研究していた。

 解呪師でもなく、そもそも聖属性の魔法すら扱う事の出来ない門外漢である彼女が、果たして呪いなど解く事ができるのか?

 

 そもそも、セツリの呪いは通常の呪いとは異なっている。

 通常、呪いを受けた人間には黒い星型の痣、不幸の星が出来る。その数により呪いのレベルが変わってくるのである。

 確かに、彼にも星型の痣はある。が、黒ではなく白い星である。それも、両手のひらに一つずつ。

 さらに彼が解呪の能力を行使した瞬間にも彼の指先に白い星が浮かびがる。つまり、数は一定していないのだ。

 これだけ見ても、明らかに普通の呪いと一線を画す彼の呪い。

 だからこそ、その解呪の方法も通常の方法ではあり得ない何か、要素、切口が必要なのではないか? というのがカンナの魔法使いとしての考察だった。

… だがそれは建前。

 その実カンナにとって、こうして一緒に居る以上自分だけが年をとっていくのが許せない、というのが本音だったりする。



 自身の能力解明の手掛かりを知るため、カンナの研究のため、セツリは町の探索を始める。


            ◆


「一つ、分かった事が有ります」

 旅の消耗品や書物を購入し、有る程度町を回ったセツリはカンナの待つ宿場へと戻っていた。買い物をする一方、ソレと同時に町の構造の把握、住人達の観察、住人達からの情報収集をそつなく行ったセツリがそう口火を切った。

「はにゃ? なになに、なんなのさ?」

 一眠りした事により、すっかり元気を取り戻したカンナは、ベッドから飛び起きセツリの隣へと駆け寄る。

「この町に来る途中、僕たち森を抜けてきましたよね?」

「あー、私がセツリに魔法談義を聞かせた森だね?」

「そうです。カンナさんに危うく殺されかけた森です。死の森です」

「ぎにゃーー、セツリってばまだ根に持ってるー! しかも死の森とか勝手に命名してるー!」

「… 別に根に持ってはいませんよ、ただ思い出したら少しイラっとしただけです」

「そ、それを根に持ってるっていうんだよぉ」

 今にも泣き出しそうなカンナ。そんな彼女の様子を意に介さず、彼は淡々と話を続ける。

「僕の聞いた話によると… 出るそうです。あの森」

 出るという単語を聞いた瞬間、びくっと体を震わせ、徐々に全身から脂汗をにじませていくカンナ。

 とどのつまり、彼女がその単語から何を想像したのかは明白だった。

 そんな彼女の様子を見かねたセツリは小さく溜息をついた。

「相変わらずですね、カンナさんは。自称天才魔法使いの癖に幽霊が怖いなんてあり得ないです」

「て、天才だろうと、天使だろうと怖いものは怖いんだもん。ガクガクブルブル」

「天使だなんて一言も言ってませんからね? あつかましいですよ、カンナさん。それにガクガクとかわざわざ口に出さないでください。たかだか幽霊に、どれだけびびってるんですかあなたは」

「だ、だってぇー」

 いつもの勢いは何処へ行ったのか、すっかり意気消沈してしまっているカンナ。

「だってじゃありません。それに最後まで僕の話を聞いてください。… 誰も幽霊が出るなんて言ってないですから」

「えー、ひっどーい。騙したなーセツリー」

「あなたが勝手に勘違いしたんでしょ? ま、ある意味こちらの方が幽霊より性質が悪いかもしれませんがね」

 カンナはごくりとつばを飲み込み、恐る恐るセツリに尋ねる。

「こちらの方が? そ、それであの森には… な、何が、いる、いる、いるの、かな?」

 その問いかけに対し、にっこりと微笑みながらセツリが答える。


「はい。ドラゴンです」


「待って待って待ってよ! はぁ? ドラゴン? ドラゴンってあのドラゴン?」

「カンナさんがどのドラゴンをご想像されているかは分かりかねますけど、その表情から察するに、恐らくそのドラゴンで間違いないと思いますよ?」

「そ、そそそ、そ、それでセツリ。ドラゴンキラーとドラゴンスレイヤーと、ドラゴンバスターは買ったのかい? 後、墓石と葬儀の準備も」

「あーはいはい、もう分かりましたから。悪ノリはそこまでにしてくださいカンナさん。分かってます、僕はあくまで解呪師… 見習い。100歩譲ってもモンスターハンターじゃありませんし、伝説の勇者でもない。僕だってわざわざドラゴンなんて幻獣相手にしたくはありませんよ」

 じゃあ何故?

 カンナがそう口にする前に、先行してセツリは説明を続けた。

「確実な情報ではないのですが、そのドラゴン… どうやら呪われているらしいんですよ。いえ、実を言いますと相手がドラゴンというのも確定情報ではないんです。何といいますか、証言が一致しないんですよ。大きさも見た目も、目撃証言が住人によりまちまちなんです。ただそれらの情報を統合していくとドラゴン、ではないかと言うのが僕の予想」

「そ、それって複数いるってこと? 一匹でもちびるほど怖いのに?」

「ちびらないでください。他人のふりしますよ? それと、まぁ、その線もありますが、もしくは」


 幻獣。

 読んで字の如く幻の生物とされる獣達の総称。ドラゴンを始め、この世界には幾らかの幻獣が生息している。人間が繁栄を誇る遥か前、太古の昔よりこの地上に存在し続ける食物連鎖の頂点達。星の子供。自然界の理そのもの。

 基本的に、これらは自ら人々の生活を脅かすような事をしない。そもそも人前にはめったに姿を現さない。故に幻。彼らは人間に干渉せず、人間も彼らに干渉しない。同じ世界、同じ地上で生きていながらも、時の流れの違う生物としての高位体。

 そんな彼らがこんな人間の生活圏に近い森に姿を現した、しかもその原因が呪いによるものだとしたら? 例え、その存在自体が自然界そのものだとしても、呪いという理の例外ではない。事態が大きく深刻なものへと変わる前に、何より双方に被害者を出さないためにも、早々にその真偽を確かめる必要がある。


「取り敢えず明日、森に噂の真相を確かめに行きましょう」

「ぐぬぬぬ。君はいつからそんな熱血野郎になっちまたんだ! 無感動無関心なセツリ君はどこへ行ってしまったんだ!」

 カンナがセツリを指さしながら叫んだ。

 彼女にしてみれば、いきなりのドラゴン登場は寝耳に水どころの騒ぎではなかった。寝耳にダイナマイトくらいの衝撃だった。

 それに加え、一度彼を守ると公言してしまった以上、当然カンナもその得体のしれない相手と顔合わせしなければならないわけで。

「カンナさん… 酷い。そうですよね… どうせ僕は偽善者ですよね。所詮は、無免許中途半端解呪師ですよ」

 そう言って部屋の隅で壁に向かってそう独り言のように呟き、三角座りを始めるセツリ。

 そんな彼らしからぬ行動に慌てて駆け寄るカンナ。

「え? えぇえええ。ほら、えーっと、冗談だよぅ、おねーさんの小粋なジョークだってば。私だって君を守るって決めたんだもん。ドラゴンだろうと何だろうとまっかせなさい!」

 カンナはその慎ましい胸を張って、堂々とそう宣言した。

 彼女の額には大粒の汗が滝のように流れている。そんな彼女の様子を知ってかしらずか、セツリがぽつり。

「あっそうですか。それでは宜しくお願いしますね…… おねーさん?」


 そう言いながら、再びにっこりと微笑むセツリだった。


END


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ