3-2
「カンナさん?」
「あ、ごめんごめん。でもなー、うーん。セツリの場合時間停止のせいもあって魔力も体力も絶対量が子供のソレだからにゃー」
「つまり、僕には魔法も戦闘も向いてないと?」
「ぶっちゃけるとね。でも真面目な話だよこれは。何度でも言うけど、君の力はまだ未知数なんだ。導火線の長さが分からない爆弾を抱えているのとおんなじ。でもまぁ、安心したまへよ。そのために、このおねーさんがいるわけだしぃ」
そう言うと、懐から1本の短い杖を取り出し、にゅーっと引き伸ばした。
「普通の人間はね、6属性のうち1つ、せいぜい2つしか扱えないとされてるんだ」
カンナはニヤリと笑うと、手にした杖を短く振るった。
彼女の杖の先から小さな火の粉が舞う。
「ほい。これが火属性の魔法。キャンプには便利だよね」
続いて杖を一振りすると、心地よい風が彼を包み込んだ。
が、その風に乗り、先ほどの火種が流され…… セツリに引火。
「あっち、あっつ、カンナさん火! 火が!」
「にゃにゃ、ごめんごめん」
そう言ってカンナは、セツリの顔目掛けて杖先から水鉄砲とも言うべき水の塊を発射。
「……」
火を消す為とは言え、結果的に全身に水を浴びてしまい、ずぶ濡れ姿のセツリ。その顔に、不穏な暗い影が差し始める。
対照的に、そんな彼を全く意に介さず、満面の笑みで話を続けるカンナ。
「続いてー、カゴミ村で披露したコレ。ほい」
杖先からビリッという一瞬の音と閃光を伴いながら、電気の球体がセツリに向って放たれた。
「え? カンナさん、この状態でそれはシャレにならな」
「…… あ」
時既に遅し。
ずぶ濡れ状態のセツリにとって、この程度の低レベルの雷魔法さえ威力は数倍に跳ね上がる。
「ぎぃぃぃゃああああああああああああ」
「あわ、あわわ、あわわわ」
全身からぷすぷすと黒い煙を立ち昇らせ、力なくその場に倒れこむセツリ。そんな彼がうわごとの様にぶつぶつと呟く。
「し、しんぷ、さまが、てをふって、る。おいでおいで、してる」
「にゃーーー、駄目駄目駄目ー、まだ逝っちゃだめー。えとえーとどうしよう!? こういうときは、こういうときは? あ、そっか」
再び手にした杖を短く振るうカンナ。
するとセツリの倒れこんだ部分の土が盛り上がり… 彼を土中へと引きずりこんでいった。
俗に言う土葬の完成だ。
「にぎゃーーーちっがーーーう!!! なにやってんだよぅ、なにやってんだわたしー」
慌てて三度杖を振るい、彼を土中から引っ張り出す。
「ごめん。おねーさん調子のっちゃった。しょぼぼん反省」
「……」
「怒ってる? 怒ってるよね? うえーん、ごめんよぉ」
セツリは無言のままじっとりと彼女を見つめた後、大きな溜息と共に、思い切り肩を落として口を開く。
「やれやれ。僕は怒ってませんよ、カンナさん。そもそもこの話を振ったのは僕ですし。それに、魔法使いとしてカンナさんが凄いってのは良く分かりましたから」
そんなセツリの言葉を真に受け、すっかり縮こまり俯きいじけてしまっていたカンナが露骨に態度を変える。
「にゃはっ、やっぱりやっぱり? 何が言いたいかっていうとね? ゆーしゅーな私ってば5属性の魔法が使えちゃうんだなーこれが。何故か補助魔法は使えないっていう制約はあるんだけどねー。あとねあとね~、セツリの疑問だけどさ。瞬間移動も箒移動の魔法も、私が知る限り存在しないんよ」
確かに5属性の魔法を使うことが出来るのは素晴らしいが、補助魔法が使えないってのはどうなのだろう。さらっとカミングアウトしてくれたが、それって魔法使いとしては致命的ではなかろうか。加えて、むしろ存在しないのではなく、単に彼女が使えないだけでは?
… 何とも中途半端で歪な才能。本当、誰かさんにそっくりじゃないか。
だが、とても彼女らしい。彼女の性格が良く現れている気がする。そんなことを考えつつ、セツリは答えた。
「へぇ、それは変わってますね」
「君ほどじゃないけどね。はい、今日の講義はここまでかにゃ。勿論1回じゃとてもじゃないけど話しきれないからね。また機会があったら話してあげるよん。じゃ、そろそろ行こっか? 流石に連夜で野宿は嫌だもん」
二人はのろのろと立ち上がり、王都を目指し再び歩き始めた。
……… そんな二人の様子を、じっと見つめる影。
それが何を意味しているのか? 二人がソレを理解することになるのは、まだ少し先のこと。
END