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第三解 「遭遇。二人と一匹」
セツリとカンナが旅立ってから、既に2週間の時が経過していた。
カゴミ村を後にした二人は、かつての神父の弟子カイドウの助言の元、セツリの解呪師中級ライセンス取得を次の目標と定め、一路王都へその歩みを進めていた。
「セツリ…」
カンナが真剣な眼差しで言う。
「カンナさん」
それに答えるようにセツリが彼女の名前を呼ぶ。
そして、二人はお互いの視線を合わせ、頷き合い、同時に口を開いた。
「疲れました」
「つーかーれーたー」
二人にとって王都までの旅路は、まだまだ先の長いものとなりそうだった。少なくとも、全く先行きが見えてこない程度には。
空は快晴。
照りつける太陽は、二人の体力を容赦なく削り取っていく。
道中、とある森へと足を踏み入れた二人は、森内を流れる小川で休息をとっていた。
ぐったりと天を仰ぐようにして倒れこむセツリが、愚痴さながらの言い分を申し立てる。
「何故です。カンナさんは魔法使いの癖に、何故箒による空中移動が出来ないんですか!」
全身汗だくになりながらの、セツリ魂の叫び。
その理不尽な雄たけびは、およそ彼の見た目通りのさながら青年の主張だった。
「はにゃ? おいおい相変わらずいきなりだな、君は」
「唐突なんかじゃありませんよ、カンナさんは仮にも魔法使いなんですから。ワープとか、1度行ったことの有る町や村に瞬間移動できるとか、せめて箒にまたがってびゅーん何て魔法があってもいいんじゃないですか?」
「ぷ、ぷ、ぷぷっ。び、びゅーんって、君ね」
カンナは顔を真っ赤にして笑い声を洩らしていたが、目の前のセツリの顔が見る見るうちに険しいものとなっていくのを感じ取り、慌ててその口にチャックを施した。
カンナは大げさに溜息を一つつくと、やれやれと両手を広げジェスチャーを送る。
「セツリってさ、時々妙に子供っぽい事言うよね。それも呪いの影響? いよぉーし、そんなお子ちゃまセツリ君のために、おねーさんが魔法の何たるかを教えたげよぅ」
「…… お願いします、カンナ大先生」
「に、睨むなよぅ。そんなに怖い顔するなよぅ。折角の可愛い顔が台無しだゾ? ……… ごほん。んじゃ始めるよ?」
「はい」
カンナは何処から取り出したのか、大きなブラックボードを構え講義を始める。
「えーとね、魔法ってのを簡単に説明しますと、この世界における目には見えない自然界の力ってやつをスペルによって引き出して、行使することね」
「はい」
「自然界の力。すなわち火、水、風、雷、大地、そして聖」
「色々有るんですね。もっとも、僕の場合聖属性くらいしか使えないんですけど。しかも低レベルのものだけ」
「にゅふふふふ、うんうん。聖属性と言えば、セツリも知っての通り、多くの解呪術式がこの聖属性なの。もちろん、中には他の属性を使っての解呪方法もあるけど、やっぱり大半がコレね。まぁ、セツリの解呪方法は、たぶんどの属性にも属してないと思う。だから」
― だから、セツリのその力が本当は、俗に言う「解呪」と呼べるような代物なのかどうか、私の知識では断言できない。
カンナはそんな言葉を口に出す事はせず、そのまま飲み込んだ。
未知数だからこそ、彼がその力を体に宿したその日から、カンナによる研究が始ったのだ。
そんな中、初めてセツリの解呪を見た日、彼女は大きな違和感を感じた。
通常の解呪とは対象者の体内から呪いを外界へ、自然界へと解放する事により対象者から呪いを剥離させるものだが、セツリの場合、呪いを開放するというより、移動させる。すなわち対象者の呪いをセツリの体内へと吸収することにより、結果的に術者を救い出している。少なくともカンナの目にはそう映っていた。
果たしてそれが何を意味しているのか? セツリの体にどんな影響を及ぼすのか?
まだまだ彼の能力には、カンナもそして彼自身も知らないような何かがある。カンナにはそう思えて仕方が無いのだった。
END