表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノロトキ!  作者: 汐多硫黄
第二解 「福音。旅立つ二人」
12/107

2-5


 部屋に入ったセツリは、自らの目を疑った。


 目の前には… 体の3分の1が《氷のように溶けてしまった》少女が一人。


「あわわ。溶けちゃってるよ、この子」

「どうじゃ。この呪い、お前さん解けそうか?」

 黙って少女を見つめていたセツリが、彼女のうなじに4つの不幸の星を見つけると、ぽつりと呟く。

「体の変化、これはレベル4の呪い。大丈夫、いけます。僕の全力を持って、必ず救いだしてみせます」

 彼は自らの左手に意識を集中させた。

 彼の左手のひらと4本の指に白い星が浮かび上がる。

「お、おい。それは」

 村長がそう言いかけた時、横からカンナがそれを制止させ、しーっとジェスチャーする。

 セツリにスイッチが入った以上、カンナに出来る事はこうやって彼が集中して解呪が出来るよう務めるだけだった。



 溶ける。

 体中が溶けていく。体と精神の境目が無くなっていくのが分かる。

 このままでは全身が溶けきって、立っている事すらままならなくなる。

 僕は自らの体を支えるため、旅のはじめ、コクーンを発つ前に自らに科した決意を思い出した。

 その決意は、やがて骨となり、鋼となり、僕の体を支える。

 その時、目の前に一人の少女が現れる。

 その少女に近づこうとした瞬間、少女の体はまるで氷が解けて水になるように、液体となり消えてしまう。

 駄目だ。このままじゃ彼女を掴むことが出来ない。

 僕は再びイメージする。

 部屋に来る前、優しくそして力強く、僕の手を握ってくれたカンナさんの手をイメージする。

 これだ。

 僕は目の前の少女の腕をぎゅっと掴んだ。

こんどは離さないように、溶けてしまわないように、消えてしまわないように、ぎゅっと掴んだ。



 僕はかざした左腕に向かい、一気に力を込めていく。



 やがて、少女の中の「呪い」が、セツリの中へと流れ込んでいく。


 時間にしてみれば、わずか4分にも満たない些細な時間。

 しかし、セツリにとっては永遠とも言える牢獄のような4分間。


 セツリの手が彼女から離れる。彼の手が小刻みに震えだす。


 そんな彼を優しく抱きしめるカンナ。

「お帰りセツリ。よぉーく出来ました」

 そう言って彼の頭を撫でまわす。

 目の前の少女の姿が、徐々に元の華奢で白い体を取り戻していく。

 数秒の後、まるで何事も無かったかのように、少女はベッドの上ですやすやと寝息を立てていた。

 よくよく見れば今のセツリと同じくらいの見た目。つまり14,5歳くらいの少女だったと言う事が確認できる。

 

 村長は大粒の涙を流しながら、少女の手を握る。

「ミヤビ… 良かった、本当に良かった。もう大丈夫だからな」

 そんな村長の様子を見届けたのち、二人はそっと部屋を後にした。



 カンナに支えられながら、どうにか屋敷の外に出たセツリ。


「有難う御座いますカンナさん。今回は、随分恥ずかしい姿を見せてしまいましたね… それに、何度もあなたに助けられた」

「にゃーに言ってんだよぅセツリ。君にお節介を焼くのが私の旅の目的なんだもん、気にしない気にしない。それにね、正直言うと私嬉しかったんだ。ほら、セツリってどんなに親しい人に対しても、頼るってことをしなかったでしょ? だから、今回君が頼ってくれて、ちょっとでも君の力になれたんならさ、おねーさん、それだけでも結構うれしかったんだー」

 満面の笑みを浮かべながら、セツリにそう告げるカンナ。

「ねぇ、カンナさん。僕、今まで解呪してきた中でも、今日ほどそれが怖いと思った日はありませんでした」

「うん。さっきもちょっとだけ言ったけど、それって君は自分に対しても、呪いの患者さんに対しても真剣に向き合うようになったからじゃないかな。今までのセツリは、ただ自分にその力があって、たまたま目の前に呪いを持つ人がいた、だから解呪したって感じだったと思うの。でも今の君は違う。君の意志で、目の前の呪いで苦しむ人を救うために、その力を使ってる。些細なことかもしれないけど、きっと大きな違いなんだよ、それって」

「… 成程。こういう時、カンナさんってやっぱり年上なんだなぁって実感します」

「えー、何だよぅそれ。折角私、かっちょいい事言ったのにぃ」

 その時、屋敷の中から目を真っ赤にした村長が顔を出した。

「おう、お前達さっきはすまんかったな。色々と無礼なことを言ってしまった」

「いえ、僕の方こそ。今考えると、かなり無茶で自分勝手な言い分だった気がします。では、ここはお互い言いっこなしにしましょう」

「ふむ、そうか。それにしてもさっきの解呪、気のせいかお前の腕と指に… いや。娘は助かった、これ以上の問答は無粋じゃな。旅の解呪師よ、ありがとう。村長として、父親として、改めて礼を言いたい。娘を救ってくださり、どうもありがとう。娘の体調が回復次第、例年通り祭りも開催できよう」

「お祭りー! やったねー、私お祭りって大好きなんだよ」

「そりゃ良かった。二人には是非とも、祭りに参加して言ってほしいと思っとったところじゃからな」



END

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ