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ノロトキ!  作者: 汐多硫黄
第二解 「福音。旅立つ二人」
11/107

2-4


 村の人々が寝静まった丑三つ時。

 村の宿場を抜け出した二人は、再び村長の館へとやってきていた。


「流石にこの時間でも、警備が手薄になることはなさそうですね」

「ほーんと、しかも右のやつなんて昼間のあいつでしょ? 何時間あそこに突っ立ってんだよ! トーテムポールかよぅ!」

「さぁ? 村長によっぽど頼りにされてるのか、或いはただの木偶の坊か」

「むっふっふ。どっちでもいいもんね、この暗闇なら私もやりやすいし、結果は同じことよん♪」

「なるべく穏便にお願いします…… 絶対無理だと思いますけど」

 カンナはそのにやけ顔を隠す事もせず、両の掌を開いたり閉じたりした後、懐から杖を取り出し準備を整える。

「んじゃ、行きますか。ごめんねぇー、村の事を思うなら、ちょーっとだけおねんねしててね~」

 彼女は一小節の短いスペルを唱え、その杖先が小さな火の玉のような光の球を宿すと、門番二人に向かい発射した。

 ギュンギュンと音を立てながら門番に向かって行く光の球。

「ん? 何だこれ… がぺっ」

「おいどうした? こんなとこで寝て… ごぺっ」

 ばたりと大の字で倒れこみ、相次いで口からぶくぶくと泡を吐く門番達。

「んー、これで大体1時間くらいは夢の中かな?」

「… 雑だ」

 憐みを含んだ表情で、倒れた門番達をまたいで進むセツリ。

「何か言ったかにゃ? セツリ君」

「いえ。有難う御座います、助かりました。でも本当… カンナさんの魔法って大雑把ですよね」

「お、大雑把って何だよぅ。しょーがないじゃん、私、睡眠魔法とかそういうちまちました補助魔法って苦手なんだもん」

 まぁ、手加減をしてくれただけでも上出来かもしれない。そんな事を考えながらも、村長宅へと不法侵入するセツリ一行。


 ガチャリ


 広い屋敷内だが、患者の居る場所を特定するのは簡単だった。この時間でも明りのついている部屋、それを探せばおのずと辿りつける。

 セツリとカンナは、音を立てず慎重に光の漏れる部屋を目指す。


「誰だ!」

 そして、あっさりと見つかる二人。

 そもそもこの二人に隠密行動のおの字も出来るはずもなく。

「お前ら、報告のあった怪しい解呪師一行だな? 何故こんなところにおる、門番は何をやっとるんだ」

 私がおねんねさせてやったもんねー、としたり顔でそう言いたげなカンナの口を先んじて塞ぐセツリ。

「勝手に侵入した事についてはお詫びします。でも、どうか僕達の話を聞いてください」

「ならん。門番が伝えたはずじゃ、貴様らなんぞのような流れ者解呪師になど頼らんでも、村長であるわしが直々に高名な解呪師の方に依頼した。貴様らに出る幕などない」

「…… んです」

「なんじゃい?」

「それでは遅いと言ってるんです! あなたは呪いを軽く見過ぎている。何故です? 何故そんな風に考えてしまうんですか?」

 セツリが珍しくその言葉を荒らげた。

 その様子に驚いたカンナが慌てて間に入る。

 完全にいつもとは逆の立ち位置に、止めに入ったカンナさえ、どうしていいのか分からないでいた。

「お、おお、落ち着いてセツリ?」

「まずあなたが落ち着いてくださいカンナさん。それに、僕は至って冷静です!」

「小僧。遅いと言ったな? 娘を診てもいないお前さんに何が分かる? 何故そう言い切れる?」

「…… 僕がそうだったから。かつての僕がそうだったから、そう言ったんです」

 そんなセツリの真剣な眼差しと言動を受けて、ギロリと睨みつけながら村長が答える。

「少なくとも、ふざけているわけではなさそうだが」

「そ、そーだよぅ。セツリはいつだって本気なんだから!」

 逡巡の後、二人を一瞥し村長はその口を開いた。

「よかろう。その無鉄砲さとお節介さに免じて、娘への面会を許可してやる。そこまで啖呵を切ったんじゃ、お前の実力とやらを見せてもらおうではないか」

 それだけを告げると、二人に背中を向け黙って部屋へと向かっていく。


「ごめん、カンナさん。何だか僕らしくなかったですね。そもそもこのやり方自体、僕らしくない。何故でしょうか、自分でも不思議な気分なんです… でも、悪くない」

 セツリは震える手を押さえながら、準備のため、自らの黒革の手袋を外していく。

 が、震えのせいでうまく外せない。普段の彼からすればあり得ない事態、考えられない行動。

 そんな彼の手に、そっと自らの手を重ねるカンナ。

「分かってる。それはきっとセツリが変わったからだよ。それはきっと良い変化。大丈夫、おねーさんがついてるもん、今のセツリはさいきょーだよ」

 

 ぎゅっと彼女の手を握り返した後、彼は村長の娘の待つ部屋へと向かった。


END

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