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第十五戒「猫道。風の吹く夜」
「あっ! そうだ! そうです、そうでした! ナナ、師匠に聞かなければならない大切な事が、一つあるのでした!」
グレイヴヤードからの離脱に、無事成功を果たした一人と一匹。
旅の疲れからか、或いは先の余韻の尾を依然として引きずったままの結果なのか。斜陽を背にし、互いに言葉数の少ないまま、人里を目指し歩みを進めていた筈のナナイロが、突如として声を荒らげ、その足を止める。
「…? にゃに? 今晩のご飯にゃら、見ての通り、どこかの村か町に辿り着くまではお預けにゃ」
「違いますってば、失敬ですよホーラク師匠! ナナ、そんなにも食いしん坊に見えますかねぇ!?」
「うん。見える」
まるで脊髄反射の如く、彼女の師たる灰色猫は間髪いれずにそう答えた。
「ですよね~。あはははっ」
そして少女もまた、先ほどの膨れ面は何処吹く風で鼻歌まじりにそう応じた。
「にゃはははっ」
「きょ~おっの、ごっはんは、なぁんでっしょね~♪」
「にゃから質問は!!!?」
夜の帳が降りる頃。
ナナイロの師たる灰色猫の叫び声は、太陽の後を追うように地平線の彼方へと消えていく。
そして今宵。
唐突にして忽然と。さならがら辻風の様に。
灰色猫にとって最も長く、最も奇妙な夜の… 幕が開ける。
END