―7―
「先生、重くないですか?」
朱里さんが申し訳なさそうに翼くんを負ぶっている俺に言った。
三人で食事をした後、お腹一杯になった翼くんが眠ってしまって、
それで俺が送って帰っているのだ。
「全然平気ですよ」
「ホントにすみません。翼の我が侭にお付き合いして貰った上、送って頂いて……」
「何言ってるんですか。それに、こんな暗い夜道を若い女性と小さな子供だけで
歩かせられませんよ」
翼くんの家は大きな道路に面していない。
周りは住宅街で昼間はそれなりに人通りも車の通りもあるみたいだが、夜になるとやはり物騒だ。
――翼くんの家に着くとおばあちゃんが出迎えてくれた。
「あらっ!? 本多先生。まあまあ、どうぞお上がりになってください」
「あ、いえ、僕はこれで……」
「何仰ってるんですか、さあさあ、お上がりになって」
そう言って半ば強引に俺を家の中に入れたおばあちゃん。
「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えてちょっとだけ……」
おばあちゃんは朱里さんが二階の寝室に翼くんを連れて行っている間に
コーヒーを淹れてくれた。
十分程が過ぎて、二階から朱里さんが降りて来た。
「翼、よっぽど疲れてたのかな? パジャマに着替えさせてる時も全然起きなかった」
朱里さんは苦笑いしながら俺の目の前に座った。
「今日はお誕生日でママと一緒にご飯を食べに行くんだって
朝からはしゃいでましたからねー」
翼くんはいつも元気だけど今日はさらに輪をかけて元気だった。
はしゃぎ過ぎて疲れたのだろう。
「それじゃあ、ママがお迎えに来なくて泣いたんじゃない?」
おばあちゃんは苦笑いした。
「もう大変だったわよー。本多先生が一緒に食事に行って下さったから、
なんとか機嫌が直ったけど」
――と、そんな話をしていると玄関のドアが開く音がした。
「ただいまぁー……」
そして、女性の声が聞こえた。
「「あ、帰って来た」」
朱里さんとおばあちゃんはそう言うと顔を見合わせた。
玄関のドアが閉まる音がして俺達がいるリビングに足音が近づいてくる。
「あれ? お客様?」
リビングのドアが開き、俺の姿が目に入ったのか足音の主は少し驚いたように言った。
(あ……この人……)
俺はリビングの入口に立っている人物の姿を見て驚いた――。