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―6―

……て、それよりも今は翼くんだ。




「やだ、やだぁっ! かえりたくないーっ!」


翼くんは朱里さんが連れて帰ろうと抱き上げると、激しく抵抗しながら泣き喚いた。




「かえったってママ、いないもんっ!」




「お仕事終わったら帰って来るよ?」




「ママがくるまでまつーっ! ママとごはんたべるんだもんっ!」




「翼、いい子だからそんな我が侭言わないで?」


朱里さんはすっかり困り果て、わんわんと泣き続ける翼くんの背中を


よしよしと擦りながらあやした。




「いつまでもここにいる訳にはいかないでしょ?


 先生だって、翼が帰らないとお家に帰れないんだよ?


 いい子だから、帰ろう? ね?」


朱里さんにそう言われ、翼くんはちょっとだけ考えるように黙り込むと、


「……じゃあ、せんせいもいっしょにかえろう?」と、俺の顔を見上げた。




(ん? 俺も?)




「ダメよ、翼」


朱里さんは困ったように苦笑いした。




目にいっぱい涙を溜めている翼くん。




「うん、いいよ」


楽しみにしていたママのお迎えも食事も無くなって、このまま翼くんを家に帰すには可哀想だ。




(だって、今日は翼くんの誕生日なのに……)


それに特に仕事も残っていない。




「え……、先生……」


朱里さんは俺がすんなりOKするとは思っていなかったみたいだ。


驚いた顔をしている。




「ほんと?」


グスン、グスンと洟を啜りながら翼くんは嬉しそうに言った。




「うん、三人で一緒にごはん食べに行こう! 翼くんが一番食べたい物は


 今度ママと一緒に食べる事にして、今日は二番目に食べたい物を食べに行こうよ」




「うん!」




「せ、先生、いいんですか? まだお仕事があるんじゃ……」




「大丈夫ですよ、仕事はもう終わりましたから。ちょっと門の所で待っていて下さい。


 すぐ行きますから」




「あ、はい……すみません」




「あはは、全然構いませんよ。今日は翼くんのお誕生日だから特別。


 でも、翼くん、他のみんなには内緒ね?」




「うんっ!」


さっきまで泣いていた翼くんは元気に返事をして、トコトコと下駄箱へ走って行った。

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