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―5―

「こんばんはー、遅くなってごめんなさいっ」


八時を少し回った頃、ようやく翼くんママがお迎えに来た。




「翼くん、待ちくたびれて寝ちゃいました」




「ホントにすみませんっ」


翼くんママは申し訳なさそうにぺこりと頭を下げた。




翼くんママと別室に行くと寝ていたはずの翼くんが目を覚ましていた。




「翼くん、お迎え来たよ」




「あっ♪」


翼くんは俺の後ろにいるママの姿が目に入ると嬉しそうな顔をした。




しかし――、




「……じゅりちゃん」


その笑顔はすぐに消えた。




(“じゅりちゃん”?)


てっきり「ママーッ!」と抱きつくのかと思っていたのに。




「ごめん、翼」


翼くんママは目に涙をいっぱい溜めて今にも泣き出しそうな翼くんの頭を撫でた。




「……ママは?」




「ママ、どうしても今日中にやらなきゃいけないお仕事があって、


 翼のお迎え来られなくなっちゃったんだって」




(へ? ママが来られなくなった?)




「きょうは、ボクのおたんじょうびなの、に? やくそく、してた……のに……?」


そして、とうとう翼くんが泣き出してしまった。




「ごめんね……翼のお誕生日はまた今度お祝いしてくれるって。


 だから今日は私と一緒に帰ろ?」




「やだぁーっ!」


そう言うと翼くんは大きな声でわんわん泣き始めた。




こんな翼くんを見るのは初めてだ。


いつも俺の言う事や他の先生の言う事だってよく聞いている。


他の園児よりも聞き分けがいい子なのに。




(……ところでー、この人が翼くんママじゃないなら……)




“ダレデスカ?”




「あ、の……」




「あ、ごめんなさい、すぐ連れて帰りますので……」




「いや、そうじゃなくてー……」




「はい?」




「えー……っと、あなたは翼くんのママじゃないんですか?」




「はい、私は翼の叔母です」




「叔母……?」




て、事は……?




「この子の母親は私の姉なんです」




なんですとっ!?




「え、あ……そーだったんですかー」




結局、俺が翼くんのママだと思い込んでいた人は“朱里”さんと言って、


翼くんママの妹さんだった。




ママじゃなかったのか……。


なんだかちょっと気が抜けたり、ホッとしたり……。




でも、俺の中で“園児の母親なのに”というブレーキが確かに今、外れた――。

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