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―29―

病室を出て行って三十分――、


俺は屋上でフェンスに寄り掛かって空を眺めていた。




(はぁ……一難去ってまた一難……、せっかく朱里さんが来てくれてるって言うのに、


 なんで叔母さんはこうもしつこいかなぁー……)


なんて事を独り言の様に心の中で呟いてみる。




すると、背後から俺を呼ぶ声が聞こえた。


「本多先生」




(……?)


振り向くと、そこには朱里さんがいた。




「……朱里さんっ」




「突然、病室を出て行ったっきり戻って来ないから心配しました。どうしたんですか?」




なんだか、とても久しぶりに朱里さんの声を聞いた気がした。




朱里さんは俺が病院に運ばれた時も中川さん達と一緒に来てくれていたと晴樹から聞いていた。


だけど俺はその時、みゆきの事で頭がいっぱいで、しかもまだ麻酔が効いていて


意識が朦朧としていたから、まったく憶えていなかった。




「……あの人、帰りました?」




「麗子さんて方の事ですか?」




「はい」




「私が先生を捜しに行く時はまだ病室にいましたけど」




「そうですか……」


(マジか……)


俺は麗子さんが嫌で病室から逃げ出した。




それなのに、まだいるなんて……




「先生、麗子さんの事、お嫌いなんですか?」




「いえ、嫌いという訳では……というか……」


出掛かっていた言葉を飲み込む。




「?」




「いえ、なんでもありません」


(せっかく来てくれてるのに、こんな事、朱里さんに話すような事じゃないよな)






しばらくの沈黙の後――、


「……あの……」


朱里さんが少し遠慮勝ちに口を開いた。




「はい?」




「あの時は、ごめんなさいっ」


俺が返事をして顔を向けると、朱里さんはペコリと頭を下げた。




(へ?)




「私、本多先生とみゆきさんの事、勝手に誤解してて……ぶっちゃったりして……、


 本当にごめんなさいっ」




「あ、いえ……」


正直、驚いた。


てっきり、まだ怒っているかと思っていたからだ。




「あの時は“敵を欺くには味方から”ってコトで実際、晴樹達に誤解されてても


 否定はしてませんでしたし。だから朱里さんが誤解するのも無理はありませんよ。


 それに……僕の方こそ、いきなりあんな事しちゃってすみませんでした」




「い、いえ……本多先生が謝ることなんて……」




「でも……驚いたな。僕、朱里さんにはもうすっかり嫌われたんだと思ってました」


実際、今日だってお見舞いに来てくれるなんて思ってなかったし。




「そんな、嫌いになるだなんて……私、あの時、本当は先生が抱きしめてくれて、


 すごく嬉しかったんです」




(……え?)

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