―26―
それから二時間後――、
ようやく手術が終わった。
手術室からストレッチャーに乗せられた本多先生が出てくると、
「蒼空っ」
みゆきさんはすぐに駆け寄った。
しかし、本多先生はまだ眠ったままだった。
と言うより、まるで……死んでいるみたいだ。
頭には包帯が巻かれ、右頬に大きなガーゼと両手両足も包帯やギブスで固定されていた。
私はその姿に思わず息を呑んだ。
主治医の先生によれば襲われた時に階段から落ちた形跡があって特に右側を
激しく打ちつけたらしく、頭部右側と顔の右側を打撲、右腕と右足、
さらには右側の肋骨二本も骨折していて左側も腕と足を打撲していると言われた。
――コンコン……
本多先生の意識が戻らないまま、ただ時間が流れるだけの病室にノックの音が響いた。
「はい」
永沢先生が返事をすると静かにドアが開き、
「警察の者ですが、多田みゆきさんはこちらにおられますか?」
と二人の男性が警察手帳を見せた。
みゆきさんはびくりとしながら永沢先生を不安そうな顔で見上げた。
「大丈夫ですよ。今日はここの会議室をお借りして軽く事情を聞くだけですから」
警察の人は少しだけ表情を柔らかくした。
それを聞いた永沢先生は「ここで待ってるから」とみゆきさんの頭を優しく撫でた。
それから、一時間くらいでみゆきさんが戻ってきた。
「い、て……」
するとちょうど本多先生の意識も戻り、ゆっくりと瞬きをしながら目を開けた。
「蒼空っ」
永沢先生が顔を覗き込む。
「みゆき……?」
目を覚ました本多先生の口から一番最初に出た名前は“みゆき”さんだった。
「みゆきは……?」
まだ顔も動かす事も出来ず、目だけを動かしてみゆきさんの姿を捜している。
「ここにいる」
永沢先生がみゆきさんの手を引いてベッドの横まで連れて行く。
「蒼空……、ごめんね、ごめんね……」
みゆきさんはそのまま泣き崩れた。
「みゆき……怪我ない?」
「うん……」
「……あいつらに、何もされてない?」
「う、ん」
「そっか、ならよかった……」
みゆきさんが泣きながら返事をすると本多先生は安心したように少しだけ笑って
泣いているみゆきさんに手を伸ばそうとした。
だけどギブスがはめられた、包帯をぐるぐる巻きにされた上、痛みでどこも動かす事も
出来ない。
「あー、情けねぇー」
彼はそう言って苦笑いすると、ゆっくりとまた目を閉じた――。