―25―
私達が病院に着くと、ちょうど永沢先生と浅田先生も病院に入るところだった。
ナースステーションで本多先生の事を聞くと緊急オペで手術室に入っていると言われた。
手術室の前にはみゆきさんがいた。
「みゆきっ」
永沢先生がみゆきさんに声を掛けると「晴樹、どうしよう……どうしよう……っ」
みゆきさんは永沢先生に駆け寄り、堰を切ったように泣き始めた。
永沢先生はまるで子供みたいに泣きじゃくっているみゆきさんに
「大丈夫だ、蒼空はきっと大丈夫だから……」
と、優しく言いながら抱きしめた。
まるで、この間の本多先生みたいに……――。
「少しは落ち着いたか?」
しばらくしてようやく少しだけ落ち着きを取り戻したみゆきさんに永沢先生は
温かいカフェ・オレを手渡した。
みゆきさんはコクンと頷いた後、両手でそれを受け取った。
「何があったんだ?」
永沢先生はみゆきさんに優しい口調で訊ねた。
「……あのね、あたしと蒼空、実はよりを戻した訳じゃないの」
みゆきさんは少し間を空けた後、思い切ったように話し始めた。
その言葉に永沢先生は眉を顰めた。
(よりを戻していないって……)
「あたしが恋人のフリをしてって蒼空に頼んだの……」
「どうしてだ?」
「最近、お店のお客様で、ある会社の社長にしつこく言い寄られてたの……でも、
あたし、今、真剣にお付き合いしてる人が他にいて……その……、
しつこく言い寄って来てた人の事、どうしても彼に知られたくなくて……、
あたしの彼も会社の社長さんでね……もしも、知られてしまったら
彼の会社に何するかわかんないし、ものすごく迷惑かけちゃうと思って……。
でも、蒼空になら何も手は出せないと思って……」
「それで、蒼空に?」
「……うん」
「だけど、それならどうして蒼空が襲われたんだ?」
「それが……そのしつこいお客様がお店に来た日は蒼空にお店まで迎えに来てもらって
マンションまで送って貰ってたんだけど……一週間前から、私のマンションの周りを
数人の男がうろうろするようになって……それで、蒼空のマンションに泊めてもらってたの。
そしたら今日、仕事から帰って来た蒼空が襲われて……蒼空、
何も抵抗しなかったみたいで……だから……あたし……」
みゆきさんはそこまで話すとまた涙を流し、泣き始めた。