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「倖、今日も約束があるってなんだろうね?」


会社の更衣室で暎子が私の隣で私服に着替えながら怪訝な顔をした。




最近、倖の様子がちょっとおかしい。




それはつい一週間前の話。


本多先生とみゆきさんの事で倖はずっと落ち込んでいた。


それで暎子が倖を元気付けようと会社の帰りに三人で飲みに行こうと誘った。


しかし、倖は「約束があるから」と断ったのだ。




原因はおそらくその日の昼休憩に倖の携帯に掛かってきた電話。


倖はその電話を切った直後から少しだけ元気になった。


だからその電話で誰かと会う約束をしたのは間違いないだろう。




それから一週間、倖はすっかり元気になった。




「あの時の電話の相手って誰だったんだろうね? もしかして本多先生だったのかな?」




「本多先生なら、もっと喜ぶんじゃない?」




「それもそうね」




「まぁ、なにはともあれ倖が元気になったんだし、よかったじゃない」




倖は今日もその“誰か”と約束があるらしく、定時できっちりと仕事を切り上げると、


さっさと退社していった。


私と暎子はその様子に首を捻っていた。






「朱里ちゃん」


私服に着替え、私と暎子が更衣室を出ると同期の三田くんが声を掛けてきた。




「今から飲みに行かない?」




三田くんはよく私を食事や飲みに誘ってくれる。


でも、私はあまり乗り気がしないから三回に二回は断っていたりする。




「今日は暎子と食事に行く約束してるから」


それに先に約束していたのは暎子とだし。




「じゃあ、三人で行こうよ?」




「でも……」




「私なら全然構わないわよ?」


三田くんの提案に私が難色を示すと暎子が気を遣ってか、


「たまにはこの三人で食事するのもいいじゃない?」と、言った。




「嘉川さんもこう言ってくれてるんだし。ね?」




「……う、うん」


そして断る雰囲気じゃなくなり、三人で食事に行く事になった――。






「朱里ちゃんと嘉川さん、イタリアンは好き? この間、いい店を見つけたんだけど、


 そこに行かない?」




もちろんイタリアンは二人とも大好きだ。


しかし、今日は居酒屋でガールズトークのつもりだった私と暎子は、


「「嫌いじゃないけど……」」と微妙な返事を返すだけだった。




それに、この間本多先生と偶然会った日も三田くんは私を高級フレンチレストランに


連れて行こうとしていた。


だけど私はデートのつもりじゃなかったし、彼にもそんな風に受け取って貰いたくなかった。


だから居酒屋ならOKだと言ったのだ。




でも、今日は暎子もいるし。


さすがに“そんなつもり”のイタリアンではないだろう。






     ◆  ◆  ◆






――二時間後。




食事も終わり、暎子と一緒に帰ろうと思っていると、


「この近くに俺がよく行くショットバーがあるんだけど、今からどう?」


更に三田くんに誘われた。




「私は、もう帰ろうかな」


暎子は私をちらりと見た。




(えー、私を置いて帰っちゃうのー?)




「この後は二人きりでどうぞ♪」


どうやら暎子は私と三田くんに気を遣っているつもりらしい。




「じゃあ、朱里ちゃん、二人で行こうか」




「え、と……私ももう帰ろうかと……」




「まだ時間早いし、もう少しくらいいいじゃん」




「でも……」




「朱里、せっかく三田くんもこう言ってくれてるんだし、連れて行って貰ったら?」




結局――、




私はまた断るタイミングをすっかり失くし、二人で飲みに行く事になってしまった――。

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