―19―
――午後七時。
私と暎子、倖の三人はある人達と待ち合わせをしていた。
その人物は翼が通っている幼稚園の先生達。
先日、社内旅行で泊まった旅館で偶然本多先生に会って、そこで悪酔いした倖が
半ば強引に本多先生とそれに一緒にいた先生達とも連絡先を交換した。
そして、さらには「今度飲みに行きましょう!」と言い出し、本多先生とは
同期だという永沢先生が「いいねー、行きましょう、行きましょう」と乗っかって、
その場はそれだけで終わったはずなんだけど、いつの間にか倖が永沢先生と
連絡を取っていて今夜飲みに行く事になったからと私と暎子は連れて来られたのだ。
「こんばんはー……て、あれ? 本多先生は?」
倖は永沢先生ともう一人の男性保育士・浅田先生が待ち合わせ場所に来ると
本多先生の姿がない事に首を傾げた。
「蒼空のやつ、今日は先約があるんだってさ」
永沢先生がそう言うと倖は「えーっ」と不満そうに言った。
倖は本多先生がお目当てだったもんね。
「まぁまぁ、蒼空なんか放っておいてさ、今日は俺達と飲もうよ」
永沢先生は苦笑いし、がっかりしている倖の背中をポンポンと軽く叩いた。
そして、永沢先生が予約してくれたお店に歩いて向かっていると……、
「永沢先生、あれ、本多先生じゃないですか?」
「うん、あの後姿と歩き方は、まさしく蒼空だな」
浅田先生と永沢先生は顔を見合わせながら言った。
何故か本多先生が目の前を歩いていたのだ。
「え、どこどこ?」
倖は“本多先生”と聞いて嬉しそうな顔をしながらキョロキョロした。
「後つけて見ます?」
浅田先生が悪戯っ子みたいな顔をすると「浅田くんも人が悪いねぇー」と、
永沢先生はニヤニヤしながら言った。
倖はと言うと本多先生の姿を見つけたようで嬉々としながら既に後を追い始めている。
だが、誰も彼女の尾行を止める者はいない。
実は私も本多先生がどこに向かっているのかちょっと気になっていたし、
暎子も何も言わないという事はきっと同じなのだろう。
――尾行を開始して十分。
「「「「「……え?」」」」」
本多先生はあるホテルに入っていった。
(……ホテル?)
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
私達五人は無言で顔を見合わせた。
きっと全員同じ事を思っているのだろう。
“誰と会うんだろう?”
そのホテルは所謂“ブティックホテル”とかそういう類のホテルではないものの、
やっぱり相手が誰だか気になる。
しかし、永沢先生はすぐに「そーゆーコトか」と言ってにやりと笑った。
「永沢先生、本多先生が誰と会うか知ってるんですか?」
浅田先生が永沢先生に訊くと「みゆきだよ」と倖に一瞬だけ視線を移しながら答えた。
(みゆきさんて……この間、旅館で会った……)
「え、あのキャバ嬢?」
「そそ。あいつ、今日はみゆきと会うって言ってたから」
「じゃあ……本多先生、よりを戻しちゃったんですかね?」
「さぁ?」
「でも、ホテルで会うって事はそういう事ですよね?」
浅田先生がそう言うと、永沢先生は誤魔化すように「それより、飲みに行こうぜ」と、
踵を返した。