―16―
「げ……み、みゆき……っ」
そこにいたのは高校時代、俺と付き合っていた多田みゆきだった。
「きゃーっ! 蒼空ぁ~っ、久しぶりぃーっ」
みゆきはすぐに俺の首に腕を絡ませ抱きついてきた。
「ちょ……っ、おいっ!」
「会いたかったぁ~っ♪」
さらに、みゆきはいきなり俺にキスをする始末……。
「……何すんだっ! おまえはーっ!」
よりにもよって朱里さんの目の前でっ。
「よー、みゆきー、俺もいるんだけどー?」
みゆきの“奇襲攻撃”をにやにやしながら見ていた晴樹は軽く手を挙げた。
「あれぇ? 晴樹じゃん」
「おいおい、俺にはそれだけ?」
「それだけって?」
「“再会のキス”とかはないの?」
「ないっ」
みゆきはバッサリ切り捨てるように言い放つと
「ところで、蒼空と晴樹、なんでこんなところにいるの?」
俺の隣の空いている席に座った。
「あー、社内旅行。みゆきは?」
「あたし達もよ、お店のみんなで来てるの。オープン五周年のお祝いで」
なるほど……後ろのソファーにはみゆきと同じ様な感じの女性が十数人と
男性が数人座っている。
「彼女達もみんな蒼空達と同じ保育士さん?」
みゆきは俺達の向かい側に座っている“チームOL”に視線を移した。
「いや、彼女達は普通のOLさんだよ。一番端に座ってる方の甥御さんが
うちの幼稚園に通ってて俺が受け持ってるんだ。
で、俺達と同じ様に彼女達も社内旅行でこの旅館に来ててバッタリ会ったんだよ」
「あはは、すごい偶然だね」
みゆきはそう言って笑いながら、すかさず「今度うちのお店に遊びに来て♪」と
俺達に名刺を配った。
「おまえ、店では“愛”ちゃんなんだ?」
名刺に書かれた名前を見ながら晴樹が苦笑いした。
「うん、そう」
みゆきはにっこりと営業スマイルを浮かべた。
ちなみに、みゆきの店とは所謂キャバクラだ。
要するにみゆきもあっちに座っているお姉さん達もその店のキャバ嬢。
風呂上りだからかほぼすっぴんに浴衣。
しかし、みんな金髪に近い茶髪だし、なんとなく“キャバオーラ”が出ていた。
「後、蒼空も晴樹もいつの間にか携帯変わったでしょ? 番号教えて♪
あたしも教えるから♪」
「てか、店用の携帯じゃねぇだろうな?」
晴樹は苦笑いしながら携帯を出した。
「大丈夫、ちゃんとプライベート用のも教えるから♪」
みゆきは俺と晴樹の携帯番号を自分の携帯のメモリーに登録すると
「今度飲みに行こうね♪」と言って、“チームキャバ嬢”へと戻って行った。