―13―
――三ヶ月後。
翼くんの苗字が“佐山”から“森川”に変わり、一週間前からパパとママと一緒に
親子三人でハワイへ新婚旅行に出掛けていた。
そして今日からまた翼くんが登園して来る。
「おはようございまぁ~すっ!」
こんがりと日焼けした翼くんがいつもにも増す勢いで俺にめがけて走って来た。
「あはは、おはよう、翼くん。いい色になってるねー」
「えへへー、まっくろくろすけでしょー」
翼くんはにこにこ笑いながら言うと「まっくろくろすけ、出ておいで~♪」と、
踊り始めた。
「おはようございます」
そんな翼くんを見つめながら菜々美さんが笑いながら俺の前に来た。
翼くんの送り迎えもおばあちゃんじゃなくて菜々美さんになり、
登園時間も他の園児達と同じ午前十時に来るようになった。
森川さんと結婚した後、会社を辞めて専業主婦になったのだ。
「今まで翼と一緒にいてやれなかった分、しっかり甘えさせてあげなよ」と、
森川さんが言ってくれたそうだ。
「あの、これよろしかったら先生方で召し上がってください。ハワイのお土産なんです」
“翼くんママ”はそう言うと俺に少し大きな袋を差し出した。
「わぁ、ありがとうございます」
中身はどうやら定番のマカデミアナッツチョコレート。
「翼くん、幼稚園変わらなくてよかったですね」
「はい、最初は母も親子三人で暮らしなさいって言ったんですけど、
主人が母を一人にする訳にはいかないって言ってくれて実家で暮らす事になったんです」
(て事は、森川さん“マスオさん”になったのか)
「じゃあ、五人になって、あのお家も賑やかになりますね」
「いえ、四人です」
「?」
「朱里は元々、近くに部屋を借りて実家を出ていたんですけど、母が体調を崩してた時に
翼の世話をする為に実家とマンションを行ったり来たりしてくれていたんですよ。
でも、私が結婚して落ち着いたので、あの子も安心して自分のマンションに戻ったんです」
「そうだったんですか」
これでもうホントに朱里さんとは会えないのかな――。