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――一時間後。


幼稚園の周りのお店で翼くんを見かけなかったか訊きながら捜していると、


大通りに救急車が止まっているのが見えた。




よく見ると救急車の横に一台の車と、さらにその横にパトカーも停まっている。


どうやら事故が起きたばかりらしい。


車の下には血だまりが広がっていて、片方だけの小さな靴が落ちていた。


そして、それは薄いグリーンの男の子の靴だった。


翼くんが履いていた靴とよく似ている。




まさか……っ――。




ものすごく嫌な予感がした。


人だかりを縫うようにして急いで救急車に近づくと、ちょうどストレッチャーで


人が運ばれているところだった。




(翼くん……? いや、そんなはずは……っ)


違っていて欲しい。


そう思いながらストレッチャーに乗せられている人物を確認しようと足を進めると


朱里さんがいた。




「朱里さん」


俺が声を掛けると朱里さんが少し青ざめた顔で振り向いた。




「先生……」




「あの靴って……」


俺は恐る恐る今思っていることが違っていて欲しいと願いながら確認をするべく訊いた。




すると、朱里さんは無言で首を横に振った。




「翼のとよく似ていますけど……違いました。居眠り運転の事故で分離帯に


 ぶつかった時に車の中に置いていた物が散乱したんだそうです」




「そうですか……」


確かに車の周りには小さな靴の他におもちゃなんかも落ちていた。


きっと運転していた人は小さな子供がいる家庭なんだろう。




翼くんじゃなかった……。




よかった……。




事故を起こした人には申し訳ないけれどホッとした。


そして、それは朱里さんも同じだった。




しかし、朱里さんの表情は翼くんがまだ見つかっていないから暗いままだ。




(どこへ行ったんだ?)




俺と朱里さんは事故現場を離れ、他に翼くんが行きそうな場所はないか考えた。




すると、朱里さんの携帯が鳴った――。




「はい、もしもし……、姉さんっ?」


朱里さんに掛かってきた電話は菜々美さん……つまり、翼くんのお母さんからだったようだ。




「……そう、わかった」


朱里さんは電話を切ると「翼が見つかったそうです」と、俺に言った。




「姉の所へ行こうとして一人で歩いているところを警察に保護されたそうです。


 それで今、警察の方から姉に連絡があって、これから迎えに行くって……」




「そうですか……それじゃあ、僕達は幼稚園に戻りましょう」




「はい」


俺と朱里さんは一緒に幼稚園向かって歩き始めた。




朱里さんは幼稚園へ戻る間もずっと俯いたまま黙っていた。




翼くんが見つかってホッとした。


……しかし、それでもやはり翼くんの顔を見るまでは安心できないのだろう。




そして、それは俺も同じ気持ちだった――。

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