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元魔王先生のスパルタ勇者塾  作者: 浦賀やまみち
第三章 臆病な勇者

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第19話 はじまりの一歩




「なら、書いてあるのか! 俺の旅の結末も!

 俺はどうなった! 成功したのか! 助けることは出来たのか!」



 私の話は途中で休憩を三度挟むほど長くなったが、ナルサスはたまに質問を交えながら、その話を真剣に聞き入ってくれた。


 一冊目の勇者と二冊目の勇者の冒険譚は遺跡などの壁画でしか現世に伝えられていないらしい。

 それを元にした創作もあるが、私が語る内容との違いに彼は『所詮、偽典は偽典か』と笑っていた。


 しかし、三冊目の勇者と四冊目の勇者の冒険譚に及ぶと、それが世に伝わるものをより深掘りした内容だと知り、彼の表情からは次第に余裕が消えていった。

 五冊目の勇者の冒険譚ではほぼ聞き役に徹し、六冊目の勇者の冒険譚に至っては完全に黙り込んだ。


 それを語り終えると、冷静さを失って、怒鳴るように問いかけてきた。


 彼は気づいているだろうか。

 その口調が乱暴になり、一人称が『私』から『俺』に変わった事に。


 いや、気付いていないからこそ、そうなったのか。

 でも、無理もないだろう。


 今まで語った六冊は歴史書そのものなら、次の七冊目は予言書になる。未来が知れるなら、誰だって知りたくなるはずだから。



「ご、ごめんなさい!

 そ、その……。な、七冊目は主人公は……。た、多分、私だと思うんですけど……

 しょ、召喚された先のページは真っ白で何も書いていなくって……。そ、その後は何も……。」



 どうしようもなく、恐縮するしかなかった。

 恐らくというか、七冊目の勇者は私に違いない。

 今なら解る。空白ページの前まで語られていた『ぼっち』の女子高生は、悲しいくらい私そのものだ。


 でも、今の私は何も成し遂げていない。

 とても、とても勇者を名乗れるような立派な存在じゃない。

 今はまだ、七冊目のタイトル『臆病な』しか名乗れない。


 たまらず、長椅子に座ったまま身体を仰け反らせて、顔を紅く染めたまま背け、ナルサスへ両掌を突き出した。


 ちなみに、私とナルサスは別々の長椅子に座って対面している。

 私が一度目の休憩で用を足しに行った後、戻るとナルサスがこう言った。

 『こうやって向かい合わせになった方が、気が楽だろ?』と。

 長椅子が祭壇に向かって配置されていたのを、ナルサスがわざわざ向かい合わせに変えて待ってくれていた。



「くっ……。そうか……

 いや、済まない。つい声を荒げてしまって……。」

「い、いえ……。」



 ナルサスはすぐに自分の失敗に気付いて、落ち着きを取り戻して、椅子に戻る。


 だが、気まずい雰囲気は残った。

 六冊の物語について、私にとってはとても久しぶりの長時間の会話で、それが趣味に通じるものだったからこそ楽しかった。

 だから、最初はぎこちなかったけど、その口は次第に滑らかになり、最後には同好者を見つけたかのように楽しかった。


 それこそ、お父さんと弟を除いたら、異性とこれほど長く語り合うのは初めて。 

 会話の糸口を探るが、経験不足な私では難しくて、視線を漂わせると、会話が途切れがちになり、私にはもう何を言うべきかが解らなかった。


 ナルサスが後頭部を掻きながら天を仰ぐ。

 少し遅れて、視線を上げると、彼が現れる時に空けた天井の大穴から見える夜空がいつの間にか白み始めていた。



「さて、そろそろ夜が明けてきた。

 今度は私が眠らないといけない。知っての通り、吸血鬼だからね」

「えっ!? ……あっ!? は、はい、そうですよね」



 なんともタイミングの良すぎるタイムアップ。

 ナルサスが失笑を漏らして立ち上がると、私も慌てて立ち上がった。


 その際、私の右手が無意識に伸びた。

 ナルサスはこの世界の住人。何処かに自宅があるはずで、その言葉が『自宅へ帰る』という意味に取れたからだ。


 物語を語る途中の休憩の度、私は用を足しに外へ行った。

 ここが木の生えていない山の中腹にある建物だと、満月の月明かりを頼りに知っていた。

 地平線に見える人里と考えられる明かりに辿り着くためには、眼下に広がる圧倒的な山裾の森を越えなくてはならないことも知っていた。


 つまり、人里へ独力で向かうのは無理だし、こんな寂しい場所に一人でいるのも無理。

 私は酷く利己的な理由でナルサスを絶対に必要としていた。



「んっ!? ……ああ、安心していいよ。

 乗りかかった船だからね。しばらくは……。そう、君が独り立ちできるくらいまでは、一緒に居てあげるから」

「ううっ……。あ、ありがとうございます」



 ナルサスが私の不安を察して、口元に微笑みを浮かべる。

 その優しい言葉が心に染み入った。私は卑怯な自分を嫌悪しつつも、不安で張りつめていた気持ちが緩み、思わず目に涙が浮かぶのを抑えきれなかった。



「但し、私の指導は厳しいよ? 付いてこれるかな?」

「私、頑張ります! 何でも言ってください!」

「なら、第一歩目。とても重要なことだ」

「はい!」



 私は鼻をすすりながら、次々に零れ落ちる涙を右腕で拭い去って必死に堪える。

 それでも身体はまだ嗚咽を漏らしていたが、ナルサスを失望させてはいけないと思い、泣き顔のままでナルサスを真っ直ぐに見つめ続けた。



「私の名前はナルサス。夜の支配者、吸血鬼にして、神秘の探究者にございます。

 さて、異世界からの来訪者にして、7代目の勇者様。貴女の御尊名をお教え願えませんか?」



 ナルサスが右手を胸に当て、左手を体と水平に伸ばして、右足を引きながら頭をゆっくりと下げる。



「あっ!?」



 その芝居じみたお辞儀を捧げられ、思わず吹き出しそうになったが、ナルサスの真剣な顔を見て、ここで笑うべきじゃないと必死にこらえた。



 それに今更ながら気づいた。

 知り合ってから数時間、いまだに私は自分の名前を名乗っていなかったことに。



「は、はい! わ、私の名前はアオイ! う、植木葵です!」



 誰かに自己紹介するのはいつ以来だろうか。

 これからは、私も少しずつ変わっていけるのだろうか。



「フフっ……。良い名前だね」


 ナルサスの優しい眼差しが私に向けられて、心臓がわずかに跳ね上がった。

 だけど、きっと大丈夫。これが私の勇者としての第一歩。




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