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元魔王先生のスパルタ勇者塾  作者: 浦賀やまみち
第一章 灰色の世界

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第1話 黒き玉座の前に




「くっ!? こ、殺せ!」



 私は魔王である。名前は無い。

 いや、正確に言うなら忘れた。配下の者たちからは『偉大なる魔王様』と呼ばれている。


 我が娘『エリザベート』の報告によると、今回の勇者はなかなかの強者だったらしい。

 その昔、敢えて世界にばら撒いた私が常時纏う無敵のバリアを破る鍵、『四至宝剣』を集め、我が魔王領の門番といえる『アキルダンロの洞窟』を乗り越え、ついにこの玉座まで辿り着いたのだ。


 久しぶりにほんの少しだけ胸が高鳴った。

 今まで何十人もの勇者が現れては消えていったが、この私の前まで辿り着いた者になると、いつ以来だっただろうか。


 しかし、それも『だった』と過去形で語るしかない。

 私は玉座から立ち上がることもなく、黒く豪奢なローブを揺らす機会すら与えられなかった。戦いは始まる前に終わったのだ。

 勇者一行を追って現れた豚鼻の二足歩行モンスター『オーク』が『偉大なる魔王様が手を煩わせるまでもありません。ここはお任せを』と勝手に戦いを始め、そのまま決着を付けてしまった。


 オークの巨大な棍棒が唸り、まずは中年の僧侶が、次に老いた魔術師が、最後に勇者も叩き伏せられた。

 壁に叩きつけられた彼等の身体からは血飛沫が咲き、今は床に赤黒い池を広げている。


 辛うじて生き残っていたのは勇者一行の紅一点。騎士と思しき一人の女だけ。

 肉体はボロボロ、息も絶え絶え。つい先ほどまで身に着けていた美しい白銀の鎧ごと衣服を破り剥かれて、髪をオークに掴まれて持ち上げられながら豊満な胸と金髪の恥部を晒していた。



「望みを言え。褒美を取らす」



 数えるのが無意味に思えるほど繰り返されてきた勇者一行の結末。

 感情は全く波立たず、失望すら湧かないが、目の前のオークは今回の功労者。支配者として、それに報いる義務は果たさねばならない。



「ブヒ! それでしたら、この女を頂けるでしょうか?」

「こ、殺せ! こ、殺しなさい!」



 問いかけに返ってきた応えは、予想した通りのものだった。

 オークが男たちには棍棒を振るい、女だけはわざわざ平手で痛めつけていた時点で、その望みは察しがついていた。


 事実、勇者一行が女だけになって以降、オークの腰布に隠れていた小オークの様子は明らかに変わっていた。

 今では腰布を持ち上げて、顔を覗かせるまでになっている。



「欲の無い奴だ。好きにしろ」

「偉大なる魔王様に絶対の忠誠と感謝を!」

「い、嫌ああああああああああっ!?」



 左肘で頬杖をつきながら、右手を軽く上げて三度ほど上下に振る。

 それは許可と退室を同時に意味する仕草だった。


 ぞんざいな対応だと我ながら思う。

 だが、オークは飛び上がらんばかりの喜びようで豚鼻の穴をこれでもかと膨らませ、鼻息をフンフンと荒げながら、女性を下卑た眼差しで見下ろして舌舐めずり。


 小オークも歓喜に震え、身体をビクビクと痙攣させて踊る。

 ぬらぬらと粘つく涎を垂らし、待ちきれないとばかりに滴らせた瞬間、かろうじて保たれていた女の理性が遂に決壊した。

 端正だった顔は苦悶で歪み、左右に激しく振り乱しながら、狂ったように泣き叫ぶが、その反応は逆にオークの興奮を更に煽るだけ。



「ブヒヒ! さあ、来い!」

「殺して! お願いだから、殺してぇぇ~~~っ!?」

「ブヒヒ! 安心しろ。俺はオーク一の紳士だからな。たっぷりと可愛がってやるぞ」

「嫌! 嫌! 嫌ああああああああああっ!?」



 城中に響き渡り、次第に遠ざかっていく女の悲鳴。

 髪を掴まれ引きずられていく女の後には、漏らされた汚物が残されている。


 しかし、私は何も感じなかった。

 何故ならば、私はアンデッド種の最上位『リッチ』である。

 赤い灯火を宿す眼孔、肉なき骨だけの身体の為、どんなに臭くとも感じない。


 だが、やはり臭いのだろう。

 オークと入れ替わりに玉座の間に現れたサキュバスのメイドたちは澄まし顔で惨状を掃除しているが、その眉間には隠せぬ皺が刻まれている。特に汚物を片付ける二人の皺は深い。


 やがて、掃除を終えたメイドたちは揃って一礼し、退出した。

 両開きの重い扉が閉まり、一人残された玉座の間でふと思い出す。


 先ほどのオークは右腕に赤いバンダナを巻いていた。

 あれはエリザベートが任命した魔王軍四天王の証だが、その名を思い出せない。



「うーーーん……。あんな奴、いたか?」



 しばらく記憶を辿ろうとしたが、どうしても思い出せない。

 他の三人の名前も同じだった。名前はもちろん、姿形や種族すらも掴めず、思考をそこで止めた。




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