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元魔王先生のスパルタ勇者塾  作者: 浦賀やまみち
第二章 魔王再誕

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第13話 黒縁メガネと隠れた実力




「あいつか……。」



 ロビーの喧騒の中にあって、不思議と目を引く存在が一つあった。

 顔立ちは悪くないが、黒縁眼鏡にポニーテール。何処ぞの書庫にでも籠もっていそうな、いかにも冴えない少女がいた。



「ううっ……。どうして、青銅ランクにもお掃除とか、お洗濯って無いの。

 モンスター退治以外は力仕事ばかりで……。これって、男女差別だよね。

 でも、黒いパンは固くて美味しくないし……。白いパンが食べたいし……。やっぱり、青銅ランクをするしか……。」



 ぶつぶつと何かを呟いており、聞き耳を立ててみれば、違和感が浮き彫りになった。


 ここに居る以上、冒険者に違いない。

 掃除だの、洗濯だの、下働きにでも憧れているあたり、来るところを間違っている。

 

 だが、妙だ。

 その華奢な身体に不釣り合いな黒金のハーフプレート。

 それを平然と着こなし、まるで体の一部のように動いている。この少女の実力が窺える。


 性格もまた妙だ。

 掲示板前の人混みの後ろで、ピョコピョコと跳ねながら隙間を伺っては、すぐに押し出されている。

 押し合いへし合いの中で名乗りを上げることすら出来ない典型的な小市民の癖して、妙に印象に残る。


 可愛げではない。憎めなさといった方が相応しい。

 地味で、不器用で、臆病。本来なら、冒険者としては真っ先に淘汰される者だと言うのに、そのちぐはぐな姿が惹き付けられる。

 見た目も、性格も、言動も、まるで異なる。共通点など何一つ無いはずなのに、エリザベートを思い出していた。


 違う。まるで違う。

 それでも記憶のどこかを無意識に刺激する『何か』を、その眼鏡の少女は纏っていた。



「ただのちんちくりんではないか」



 だが、それを認めたくない心が吐き捨てる。

 声の奥底にわずかな躊躇いが滲んでいたが、気のせいだろう。



「ななっ!? いきなり何ですか!」



 少女は自分自身にも自覚が有るのだろう。

 背後で吐き捨てた俺の文句を即座に拾って、肩をビクッと震わせながら勢い良く振り向いた。


 その拍子に背負っていた剣がギシリと音を立て、細い身体には明らかに過剰な重さを訴えかける。



「あっ……。いえ、何でもありません。ごめんなさい」



 そして、俺と視線が合ったその瞬間。

 黒縁の眼鏡の奥にある瞳が泳ぎ、少女は顔を背けた。


 その上、逃げ出そうとする始末。

 稼ぎを得るためにここへ着たはずにも関わらず、俺が視線を向け続けていると、出入口の方向へ踵を返した。


 臆病にも程がある。

 こんな奴が冒険者をやっているなんて信じられない。



「おっと、何処へ行くの? アオイちゃぁ~~ん?」

「えっ!?」



 そう言いながら、俺の後ろにいた受付嬢が少女の肩を掴んで引き止めた。



「相変わらずの恥ずかしがり屋さんだねぇ~?

 今日もまだ依頼が取れていないみたいだし……。もっと積極的に行かないと駄目だよ?」

「ほ、放っておいて下さい!」



 どうやら顔見知りには強気で出れるらしい。

 一瞬、少女はほっとした表情を浮かべると、小さな声でありながらも強い口調で言い返した。



「おやおやぁ~~……。そんなことを言っても良いのかな?

 せっかく、お姉さんがアオイちゃんのために美味しい依頼を持ってきたのに」

「……えっ!?」

「今日は白いパンどころか、『七つ角の屋』のフルーツタルトがお腹一杯に食べられるよ?」

「う、嘘っ!?」




 だが、いつの世も、どんな種族も、女という生き物は甘いものに弱いようだ。

 エリザベートもそうだったが、受付嬢の言葉は魔法のように効いた。


 肩を掴まれても、立ち去ろうとしていた少女が立ち止まったかと思えば、くるりと身体ごと振り返った。

 黒縁の眼鏡の奥、その瞳をこれでもかというほど輝かせた。


 ちなみに、『七つ角の屋』のフルーツタルトとは、街の中心にある高級レストランの名物で、その味は『王様の舌を唸らせる』と評判を持つ。

 俺も一度食べてみたが、確かに美味いと感じた。ただ、元々甘いものは好まないため、それで十分満足してしまった。


 しかし、庶民にとっては、そのような一品すら手が届かない憧れの存在。

 大抵は甘いもの好きと相場が決まっている女にとっては、尚更そうだろうし、パンの色に悩むような日常を送る者にとって、あの味はまさに夢のまた夢のようなものだ。



「内容は戦闘のレクチャーを三日間。

 難点は、世間知らずのお坊ちゃんが相手ってところだけど……。」

「おい、聞こえているぞ? わざとか? わざとだな?」



 受付嬢が少女に耳打ちして、こちらを見る。

 その声は耳打ちでありながら、俺にも聞こえる音量であり、俺は顔を引きつらせながら必死に噴火寸前な怒りに蓋をする。


 短い付き合いだが、受付嬢の性格は把握できた。

 こいつに何を言っても無駄だ。代わりと言ってはなんだが、少女を見る目が自然と厳しくなった。



「あっ、いえ、そういうのはちょっと……。」



 たちまち少女の目がさまよい、最終的に俺から顔を目いっぱいに背けた。

 肩を掴まれた受付嬢の手を払い除ける勇気は持っていなくても、再び出入口へ向かおうと歩み出す。



「依頼料は銀貨6枚と銅貨30枚よ?」

「えっ!?」



 だが、受付嬢を引きずりながらも、その言葉に足をピタリと止めた。


 俺自身、驚いた。

 俺はパーティを組むあてに少女を紹介されただけで、冒険者ギルドに金銭は払っていない。


 つまり、本来なら依頼者と冒険者の仲介料を取るはずの冒険者ギルドが依頼者となり、少女にその金額を支払う形になる。

 それは少女に対する評価と期待だ。


 金額も一日あたりに換算すれば、銀貨2枚と銅貨10枚。

 そこそこの宿に泊まれて、そこそこの食事で腹を満たし、そこそこの歓楽街の店で嬢一人と楽しみ、先ほど話題に挙がった『七つ角屋』のフルーツタルトを食べても余る。


 それほどの価値が目の前の少女に有るというのか。

 改めて、少女を上から下へ、下から上へと眺める。


 肉付きは細く、醸し出す臆病さも相まって、頼りなさを感じる。


 たぶん、胸も小さい。

 黒金のハーフプレートは女性用。その胸はそれなりに膨らんで象られているが、肉付きに不釣り合いだ。


 それに黒金は金属であり、収縮性はない。

 装着時、身体とハーフプレートの間に生じる隙間に詰め物をして、フィット感を得ているに違いない。



「もちろん、ゴブリンか、コボルトの討伐依頼も合わせて受けることになるから、報酬は結構な額になるわよ?」

「やります! やらせて下さい!」



 確実に言えるのは、昨夜のお相手が銀貨2枚と銅貨10枚だったが、その嬢と少女が並び立つとは、とても思えないということだ。




 ******




 こうして、魔王と勇者、冒険者ギルドの三者はそれぞれ異なる思惑を抱えつつも、その方向性は重なり合い、魔王と勇者は邂逅を果たすことになる。




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