表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元魔王先生のスパルタ勇者塾  作者: 浦賀やまみち
第二章 魔王再誕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/29

第12話 魔王だった俺、まずは雑用から




「あ~あ……。もう、そんな季節なのね」



 受付嬢は顔を背けて、小さくポツリと呟いた。

 その声音には、隠すつもりすらない嘲りの色があった。



「おい、わざとだろ? 言いたいことがあるなら、目を見て話せ」



 声が低くなったのが自分でも解った。

 だが、受付嬢はニコリと笑い、俺のローブをチラリと見て、肩を竦めた



「そのローブ、魔術学院のでしょ? それもまだ新しいから、今年入学したばかり。

 風物詩なんですよねぇ~~?

 攻撃魔術の一つも覚えて、自分が凄く強くなったと勘違いする。そう、身の程知らずが出てくるのって」



 言葉のひとつひとつが、丁寧に選ばれた毒。

 胸の奥がぐつぐつと煮え始める。


 しかし、受付嬢は止まらない。

 むしろ愉しんでいるように、声のトーンを少しだけ上げて言った。



「あっ!? レイモンド様は偉大なる魔王様でしたっけ?

 なら、大丈夫なのかな? ……ぷっ!?」



 口元を手で覆いながら、これ見よがしに笑いを堪えるその仕草。

 本気で引き裂いてやろうかと思った。魔力が指先に滲みかけたのを自覚して、俺は奥歯をぐっと噛んだ。



「ぐぐぐっ……。」

「あら、やっぱり冒険者は止めにしておきます?」



 この女、解っていて言っている。

 ここでキレたら、相手の思う壺だ。それは魔王としての矜持が許さない。

 かつて幾人もの勇者を前にしても、涼しい顔で立っていた俺がたった一人の受付嬢に挑発されて、怒りを爆発させるなど滑稽にも程がある。


 それに俺はもう魔王への道は歩まないと決めた。

 どんなに腹が立とうと、今の俺は『ただの新人冒険者』でしかない。

 この立場で問題を起こせば、冒険者としての道が断たれる可能性すらある。


 だからこそ。俺は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。

 握り締めた拳から、静かに魔力を引き戻す。



「なるほど、風物詩か。覚えておこう」



 そう呟いて、俺は椅子に座り、背もたれに体を預けた。

 静かに目を閉じ、怒りの波を押し込める。


 一応、自分には無縁だと鼻で笑いながらも、銅の判子が押された依頼書も記憶に留めていた。


 その内容は誰にでも出来る雑用。どれも報酬は雀の涙。

 俺が思い描いていた未来図を現実のものとするのは不可能だった。



「もし、ランク上の依頼を受けたい場合は……。」

「むっ!?」



 不意に受付嬢が口調を切り替え、事務的なトーンで言葉を続けた。



「同ランクの冒険者四名以上によるパーティを組むことで、一つ上ランクの依頼が受けられます。

 もしくは、既に所属しているパーティがある場合、その中で最も高いランクの方に準じて、該当ランクの依頼を受けることも可能です」



 俺の思考を見透かしたかのような補足だった。

 まるで『そこまでして上の依頼を受けたいなら、手はあるにはありますよ』とでも言いたげな得意げな顔。


 この女、何を企んでいるのか。

 あれほど俺を嘲笑しておきながら、今さら建設的な提案。裏が有るに違いない。



「……と言うことは、だ。

 白金ランクの者をパーティに加えたら、いきなり白金ランクの依頼を受けられることも可能。そういう解釈で良いのだな?」



 渡りに船とは、正にこの事。

 差し出された釣り針は大きく、太く、魅力的だった。


 もちろん、それが毒針か否かなど、この俺には些細な問題だ。

 問題はどう喰うかだ。



「はい、可能です」



 受付嬢は微笑を浮かべたまま、間髪入れずに続ける。



「ですが、想像してみて下さい。

 レイモンド様が仮に白金ランクの冒険者だったとして……。」



 声にわずかばかりの棘を混ぜながら、言葉を繋ぐ。



「ギルドに登録したばかりの、素性も実力も未知数の駆け出しと、わざわざパーティを組もうと思いますか?」

「……思わない」



 俺は唸るように答えるしかなかった。

 その問いには返す言葉がない。正論だ。



「それが答えです。まずは銅ランクの依頼で実績を積んでください。

 地道に、青銅ランクを目指しましょう。レイモンド様」



 話が戻った。

 まさか、ただの意地悪ではあるまい。何らかの目論見があった筈だ。



「参考までに聞こう。銀までランクアップするのに、どれだけの実績が必要なんだ?」



 俺が鼻を鳴らして尋ねると、受付嬢はつまらなそうに答えた。



「ランクアップ基準につきましては、一切が部外秘となっておりますため、お教えすることは出来ません。

 ただ、銅から青銅へのランクアップ自体は、さほど難しくありません。遅くても一ヶ月、早い方なら二週間ほどで達成されることもあります」

「雑用を……。二週間もだと?」



 思わず眉を顰めた。

 街の掃除に荷運び、猫探しに便所掃除。そんな下賤な雑務を、よりにもよってこの俺が二週間も冗談じゃない。


 こうなったら、実力を見せつけてやろう。

 冒険者登録さえ済んでしまえば、こっちのものだ。

 規則だの、ランクだの、小賢しい枠組みなど、俺の力の前では無意味だという事を。


 あの依頼書に書かれていたサイクロプス。

 たかが単眼の巨人風情その首を取ってきてやる。


 それを、この無礼な受付嬢の前に叩きつける。

 その時、お前の顔がどんな風に歪むのか、想像するだけで愉快だ。


 黙って従うフリをして、然るべきタイミングで全てをひっくり返す。

 そういう『遊び』なら、慣れている。



「一応、忠告を致しますが……。

 冒険者ギルドを仲介していない依頼は、ランクの査定対象になりませんし、報酬も支払われません」

「なん……、だとっ!?」

「先ほど説明した通り、ランクは強さではありません。実績です。

 具体的に言えば、レイモンド様が個人的にドラゴンを倒したとしても、それで名声は上がるかも知れませんが、冒険者ギルドにとっては一切関係のないことです」

「ぐぬぬ……。」



 だが、その悪巧みすら読まれていた。

 思わずソファーの肘掛けを両手で勢いよく叩き上げて腰を浮かせたが、数秒の中腰のまま、力なく腰を落とす。


 奥歯を噛み締め、悔しさを飲み込む。

 この女、只者ではない。魔王である俺をこうも凹ますのだから、もし時代と巡り合わせが噛み合えば、稀代の軍師となるに違いない。



「レイモンド様、よくお考え下さい。

 冒険者ギルドは冒険者一人のためにあるのではなく、冒険者全体のために存在しているのです。

 例えば、レイモンド様が無謀なランクの依頼を引き受けて、それが失敗に終わったとしましょう。

 当然、依頼主は不満を抱きます。レイモンド様に対してだけでなく、その依頼を許可した冒険者ギルドに対してもです。

 『どうして、役に立たない者を送り込んだのか』と、『冒険者ギルドは自分たちを侮っているのか』と罵られることになるでしょう。

 そして、そうした失敗が重なれば、冒険者ギルドの信用は揺らぎ、やがては冒険者全体の信用問題へと波及していくのです。

 だからこそ、ランクという制度が存在するのです。

 言い換えれば、これは先人たちの知恵の結晶。

 ならず者や盗賊と変わらぬ武装者でしかなかった冒険者たちが、社会的信用と地位を得られているのは、このランク制度が有ってこそなのです」



 受付嬢はまるで予想通りとでも言いたげに溜息を漏らすと、ここぞとばかりに冒険者ランクの重要性を優しく説き始めた。



「ですが、レイモンド様はどうしても格上に挑戦したいご様子ですね。

 そんな貴方にご紹介したい方がいます。

 もうすぐ鉄ランクに昇格される間近の冒険者です。ご一緒にパーティを組んでみてはいかがでしょうか?」



 最早、それが毒針だろうと構わなかった。

 俺が食いつくのを見越してか、受付嬢はわずかに唇を吊り上げ、意味深な笑みを浮かべた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ