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元魔王先生のスパルタ勇者塾  作者: 浦賀やまみち
第二章 魔王再誕

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第11話 銅のタグと銀の夢




「こちらがレイモンド様の冒険者タグとなります。

 初回の発行は無料ですが、次からは有料となります。無くさないようにお願いします」

「ああ、解った」



 ここは冒険者ギルドの奥にあるVIPルーム。

 一つ、一つが見るからに逸品の調度品に囲まれて、俺は牛革張りで座り心地抜群のソファーにどっかりと腰を下ろしていた。


 本来なら、貴族や大店の商人を迎える時にしか使われない特別な部屋だ。

 何故、そんな部屋に元皇族とはいえ、今は平民で冒険者になったばかりの俺が通されているのかと言えば、それはギルド長の配慮によるものだった。


 なにしろ、俺がロビーにいるだけで、朝の忙しい時間が一向に終わりそうになかった。

 あの水晶玉の一件が話題に上る度に笑いが起き、騒ぎがいつまでも続いていた。




「次は当ギルドの利用に関しての説明となります。質問がある場合、その都度にお願いします」

「一応、知っているつもりだが、よろしく頼む」



 おかげで、受付嬢には貧乏くじを引かせてしまったようだ。

 どうやら、今まで一度もこのVIPルームに入ったことがなかったらしい。その豪華さに気圧されて、どうにも居心地が悪そうにしている。


 俺の正面に見た目こそ座っているが、実際はソファーの端に尻をちょこんと乗せてるだけ。背筋はやたらとピンと伸びていた。

 ついでに言えば、一刻も早くこの部屋から出たいのか、ロビーに居た時よりも口調が少し早い。


 それが可笑しくて、つい鼻で笑ってしまった。

 癪に障ったのか、受付嬢の目がほんの少し鋭くなったが、俺の興味は既に冒険者タグへと移っていて、右手の中でそれを弄んでいた。



「当ギルドは、あくまで冒険者様と依頼者様の間に立つ存在であり、それ以上でも、それ以下でもありません。

 もちろん、依頼についての相談を頂ければ、対応は致しますが……。

 それを受けるかどうかの最終的な判断は、あくまで冒険者様ご自身に委ねられ、全ては自己責任となります」


 大きさは小柄な女性の掌にすっぽり収まるほどの、銅製の長方形のプレート。

 俺の名前が刻まれていて、四辺は丸みを帯びている。そのうちの一辺には、紐か鎖を通すための小さな穴が開いていた。



「ご理解が頂けましたら、お渡しした冒険者タグをご覧ください。

 一番上にレイモンド様の名前。その下に『銅』と書いてありますが、これはランクを表します。

 ランクは上から白金、金、魔銀、銀、鋼鉄、鉄、青銅、銅の順で並び、レイモンド様は登録したばかりなので一番下の銅となります」



 つまり、首にかけて、肌身離さず持っていろ。

 そんなところかと受付嬢の説明を聞きながら思い、俺は冒険者タグを懐のポケットにしまった。

 心は少し浮き立ち、この説明が終わったらすぐにでも冒険へ向かいたかった。


 冒険者登録をする前に、ロビーの掲示板に並ぶ依頼を確認して、目星をいくつか付けていた。

 その中でも目を引いたのは、このモテストの街から半日ほど歩いた村からの依頼『サイクロプス』の討伐だ。


 場所が近い割に報酬が格段に良い。


 サイクロプスとは、頭に角を生やした単眼の巨人。

 全長は小さいもので3メートルを超え、大きいものになると10メートルにも達する。


 奥深い森の山裾で、家族単位の群れを作る習性を持つが、まれに群れから離れた個体『はぐれ』が現れる。

 それが人間が暮らす圏内に入り込んだら、それはもう立派な災害になる。


 その存在に動物たちは怯え、周囲の森から姿を消す。狩りは成り立たなくなる。

 朝夕に響く雄叫びは強い雷雨を呼び、そのせいで大地は泥沼と化し、川は氾濫する。


 そして、何より厄介なのが、一度でも人の味を覚えてしまった場合だ。

 そうなると、サイクロプスは人を積極的に襲い始め、その巨体を活かして村や町を破壊する。まさに災害そのものになる。


 だから、サイクロプスの討伐依頼には、完遂が絶対に求められる。

 ベテランですら尻込みするほどで、ふつうは20人以上の大所帯で挑む羽目になる。


 そんな話をエリーの庭で冒険者達がしているのを、俺は横耳で聞いた。


 もっとも、サイクロプス程度の雑魚なら、俺の一撃必殺の魔術で仕留めるのは造作もない。

 まさに美味しすぎる相手だ。



「このランクを自分の強さと勘違いする者が多いですが、ランクは実績の証です。

 当ギルドが仲介した依頼をどれだけ完遂したかにより、ランクアップしていきます」



 俺の頭の中は既に、サイクロプスを倒して、多額の報酬を手に入れた未来図で踊っている。

 このモテストの街から半日程度の村なら、魔術で空を飛べば、往復の時間は半日もかからない。


 しかも、ターゲットは巨人のサイクロプス。

 目立つ存在のため、捜索に時間はかからないだろう。


 昼食を食べて出発しても、夕飯前には戻れると踏んでいた。

 その後は歓楽街へ繰り出し、今夜の店と嬢はもう決まっている。


 俺は口元をニヤリと緩め、満足げに頷きながら、窮屈さを感じ始めた足を組み替えた。



「言い換えると、当ギルドの冒険者様に対する依頼解決能力の物差しでもあります。

 そのため、ランクを超える依頼は受けられません。

 つまり、レイモンド様がどんなに自信があっても、ランクが銅の間は青銅以上の依頼は許可されません」



 だが、その幸福な未来図に冷水を浴びせられ、俺は我に返った。

 何故なら、狙っていたサイクロプス討伐依頼書には、赤いインクで押された目立つ『銀』の文字があったからだ。


 さらに他に候補としていた依頼書には『鋼鉄』ばかりが刻まれていた。


 ここまでの説明を聞けば、その赤インクの意味はすぐに理解が出来た。

 即ち、俺の計画は最初の一歩を踏み出す事すら許されていなかった。



「何だって!? それは困る!

 掲示板を見たが、銅ランクの依頼は薬草採取や街の掃除といった雑用ばかりだったぞ?

 いやいや、違うだろ! 冒険者は冒険をするから冒険者だ!

 誰も足を踏み入れたことのない領域に行き、モンスターを倒して、この世の神秘を解き明かす!

 それがやりたくて、俺はここへ来たんだ! 草やゴミを集めるためじゃない!

 くっ……こうなったら、ゴブリンやコボルトのような雑魚でも構わん! 青銅ランクの依頼は受けられないのか!」



 すぐさま組んでいた足を解き、椅子から身を乗り出して熱く語った。




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