第?話 過去にして、未来
「突撃ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
ほぼ平行して連なる二つの山脈の狭間にある荒野。
北東に約50万、南西に約50万。合計100万の軍勢が土埃を巻き上げ、今まさに激突しようとしていた。
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「ど、どうしよう? ……ど、どうしたら?」
戦場の南、山の中腹に突き出した崖の上に四人の男女が立っている。
その内の一人、眼鏡をかけた黒髪の少女は眼下に広がる光景に恐怖で震え、慌てて右後ろを振り返った。
「知らん」
その視線の先に立つのは、巨大な岩の上で腕を組む黒髪の青年。
紫色の瞳が冷たく光り、少女の問いに一瞥を返すと、再び眼下の戦場を楽しむように眺めて、口元にニヤリと笑みを浮かべる。
「知らないって!」
「だったら、教えてやろう。
戦争とは外交手段の一つだ。国と国が譲れない利益を奪い合っているに過ぎん」
「で、でも……。」
今日までの旅の間、お前は自分の糧を得る為に何匹のモンスターを殺した?
それと何の違いが有る? 違いが有るとしたら、規模が大きいか、小さいかだけだろ?」
「そ、それは……。」
「そもそもだ。どうにかしたいなら、お前の大義をまず示せ。それすら見せずして嘆くなら、ただの駄々に過ぎんわ」
少女は憤りを露わに声を荒げるが、青年の正論に押されて黙る。
正義感で燃えていた瞳は力を失い、とうとう青年と目を合わせることができず、視線を落とした。
「ニャン、ニャン、ニャン!
そこまでニャー。いつもながら**ニャンのツンデレぶりにも困ったものニャー」
「あえて突き放すことも、また愛。私は猛烈に感動を致しました」
猫耳の娘が拍手を三度打ち、その意見に僧衣の大男も頷く。
「う、うるさい! お、お前等は黙っていろ!」
青年は顔を赤らめて焦り、猫耳娘と大男を何度も交互に勢い良く指さして静止させようとする。
「えっ!? えっ!? えっ!?」
肝心の少女は何も理解が出来ていなかった。
青年が指さすリズムに合せて、顔を猫耳娘と大男へ向け、最後に首を傾げた。
「切ないニャー……。いつもながら**ニャンの鈍感ぶりにも困ったものニャー」
「耐えることも、また愛。私は猛烈に同情を致します」
呆れた猫耳娘が溜息を漏らし、大男も頷き続ける。
「と、とにかく! と、とにかくだ!
た、他者を動かしたいなら、お前がまずやってみせろということだ!」
青年はもう言葉を飾るのを止めた。
場の空気を左手で払い除けると、右手で少女を勢い良く指さす。
「解りません」
「あん?」
「大義なんて、難しいこと……。私には解りません。でも、どうにかしたいんです」
少女は小さな声で繰り返して、目を伏せた。
「ちっ!? あのな……。」
青年は苛立ちを隠せず舌打ち。
深呼吸をして、説教を続けようとしたその時だった。
「だって、気に入らないんです! とにかく、気に入らないんです!
だから、私は止めたい! ただ、それだけです! それ以上でも、それ以下でも有りません!」
少女は顔を弾くように勢い良く上げた。
青年の目を真っ直ぐに見据えて、胸を右掌で叩きながら高らかに吠えた。
その理由になっていない理由に三人が揃って目を見開き、口を半開きにする。
戦場の喧騒だけが響く中、少女は自分を信じられないものを見るかのような三人の視線に気圧されて後ずさる。
「無理にとは言いません。だから……。
ううん、違う! お願いです! 皆さんの力を私に貸して下さい!」
しかし、二歩目。下げかけた足を前に踏み出す。
心を奮い立たせ、三人に深く頭を下げると、長いポニーテールがぴょこりと跳ねた。
「当然ニャー! **ニャンはニャーの友達ニャー!
だったら、友達が困っているのを見捨てなんかしないニャー」
猫耳娘はそう答え、右と左の拳を胸の前で打ち合わせてから、親指を立てて少女に微笑みかける。
「今、己が道を切り拓かんとする勇気ある者よ。何なりとご指示を」
続いて、大男も左手を腰に当て、右拳を大地に突き立てて跪き、頭を深く下げた。
「***さん! ****さん!」
少女は伏していた頭を戻して、その表情を目一杯に輝かす。
だが、一番頼りにしている青年の反応が続いてこない。思わず縋るような眼差しを向ける。
「くっくっくっくっくっ……。ふはっ!?
ふはっはっはっはっはっ!? あ~~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!?」
「*、*****さん?」
青年は右手で顔を覆い、俯きながら肩を震わせると、たまらず笑い声を爆発させ、身体を仰け反らせた。
戦場の喧騒を上書きして、狂気じみた笑い声が響き渡り、少女は茫然と顔を引きつらせる。
「気に入らないときたか! 良い! 実に良いぞ!
闇と欲望の祝福を受けるお前に相応しい立派な大義だ!
ならば、見せてみろ! お前の大義を! その輝き、この俺が見定めてやる!」
しかし、笑みが止んだその時、少女は気づく。
戦場を指さす青年の満足げな表情に、100万の軍勢にも勝る援軍を得たことを。
「はい!」
少女は声高らかに頷き、青年の期待に応えようと戦場へと向き直る。
鞘から抜き放った剣を頭上で両握り持ち、その切っ先を掲げると、剣の表面を覆っていた鉛色はぱらぱらと剥がれ落ち、眩いばかりの黄金に変わって、その光を天へと上らせた。
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「これが……。これが見たかった!
***! 遂にお前は、お前になるんだな!」
「****! 貴様、何を知っている!
父上じゃ! 何故、人間になっているかは知らんが妾には解る! あれは父上じゃ!
そして、あの剣! あの輝き! あの女は今代の勇者じゃろ!
何故、魔王である父上が勇者なんぞと一緒に居る! それも親しげにじゃ! 納得がいかん!」
四人の居る南の山とは対照的に、北の山頂にも戦場を見下ろす目元を隠すマスクの男と黒いゴスロリを着た幼女が立っていた。
「ふっ……。運命が変わるのさ」
「何っ!? どういう意味じゃっ!?」
「なら、語ろうじゃないか。
私にとっては過去の物語なら、君達にとっては未来の物語を」
ゆっくりと倒れてゆく北の山から昇る黄金の光の柱。
それは激突寸前の両軍の間に立ち塞がり、進軍を止めた。
こちらは『魔王のぼっち勇者育成録』のリメイクになります。




