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冷めた結婚になると思っていたのに、どうやら旦那様は私が好きみたいです。

作者: 有梨束
掲載日:2026/02/15

「エマ、私の可愛い奥さん。ずっとそばにいておくれ」


ギルバード様との出会いは、今から1年以上前のこと。

自己中なお姉様がとうとうやらかしたことがきっかけだった。


お姉様は、侯爵家のギルバード様と婚約を交わしたばかりだった。

というのに、子供を身籠もって踏ん反り返っていた。

もちろん、相手はギルバード様ではない。

そこで白羽の矢が立ったのが、妹の私だった。

不幸中の幸いか、『伯爵家の娘と婚約した』ということしか世間は知らなかった。


即婚約、花嫁修行と称してそのまま侯爵家へと連れて行かれた。


だから、償いをするんだと思っていた。

それなのに、ギルバード様は最初から私に優しかった。


「エマ、苺だよ」

「あの、ギルバード様、自分で食べられます…」

「ほら口を開けて」

手ずから食べさせられるどころか、いつも通り横抱きされている。

使用人全員が生暖かい目でこっちを見ている。


やめて、見ないで、見ないフリして下さい…!


私はなんとか口を開けて、従った。

拒否すればするほど、私の羞恥が削られることがわかっているから。

苺の一番甘い部分が、口の中に入ってくる。


「…」

「美味しいかい?」

「…はい」

「よかった。あと、私のことはなんて呼ぶんだっけ?」

「………ギル」

ほとんど息みたいな声だったのに、ギルバード様は満足そうに微笑んだ。

「私の天使は今日も可愛いな」

「〜〜〜っ」

私、いつか溶けちゃうんじゃないかしら…。


正式に結婚して、ひと月ほど。

スキンシップは前から多かったけど、結婚した途端、ギルバード様は遠慮しなくなった。

家にいる間は片時も私のそばから離れないし、移動は手を繋ぎたがるし、それ以外は横抱きにしたがる。


「はああ、仕事場に連れて行きたい…。連れて行くか」

「えっ」

私は侍女のジーナの方を向いて目で訴えると、ジーナは静かに頷いた。

「奥様は今度の夜会の準備がございますので、連れて行かないでくださいませね」

ジ、ジーナ〜〜〜、ありがとう…!

「…では、今日のところは君と離れるのを我慢して行ってくるよ」

ギルバード様は、おでこと頬と瞼の上にキスを落とした。

これもこの家に来た時から、毎朝のこと。

「行ってらっしゃいませ」

「名前を呼んでくれないのかい、私の奥さん?」

「ギ、ギル、お気をつけて」

満足したのか、ようやく私を膝の上から下ろしてくれたのだった。


「エマ、もっとこっちにおいで」

「ギルバード様、そんなに近いと変に思われてしまいますよ」

「夫婦が近い分には、何も思われないよ」

私はお揃いの色で作られたドレスを着て、夜会に来ていた。

ギルバード様も、同じく青色を纏っている。

しっかりギルバード様の瞳の色だ、ううう、どんな顔をしていたらいいの…。


「…ギルバード様」

そこで城の使用人に声をかけられた。

「殿下がお呼びです」

「妻と来ているので後日にしてもらいたんだが?」

今、殿下って聞こえましたけど!?


「私は大丈夫です、行ってきて下さい」

「だが」

「テ、テラスで待ってます!誰ともお話ししません!」

「…わかった。男に話しかけられたら無視していいからな」

「はい…!」

絶対良くないけど、ギルバード様が怖くなるよりはいいわよねっ…!?


私をテラスまで送ると、すごく不服そうな顔で行かれたのだった。

「…社交をしないでお義母様に怒られないかしら」

すっかり仲良くなったお義母様の呆れた顔が浮かぶ。

ふふっと笑みを零した時、聞きたくなかった声が聞こえた。


「あら、エマったら随分良くしてもらっているみたいじゃない?」

「…お、お姉様!?」

あの日以来見るお姉様は、さらにキツい顔になっていた。

「どうしてここに…、領地でまだ謹慎中では…?」

子どもに罪はないと、お父様は子が産まれるまではお姉様を勘当せずにいた。

その代わり、領地で監視付きのはずなのに、なんで──。


「エマ、今までご苦労様ね。お前の役目も終わりよ」

「何を、おっしゃっているのですか…」

「だからっ、私が侯爵様と結婚するから、お前に用はないって言っているの!」

この人は、本当に何を言っているのだろう…。


「まーあ、独り身で実家に返すのは可哀想だから、この私がお前のために新しい旦那を見繕ってあげたわ。感謝なさい」

お姉様は相変わらず踏ん反り返って指を鳴らすと、テラスに無骨な男性が入ってきた。

いかにもお姉様のお友達といった印象の悪い方だった。


「私はギルバード様と婚姻しています。お姉様とはご結婚なさらないと思います」

「はあ!?大体、私の子はギルバード様の子なんだから!」

「何を言って…」

「ほら、早く連れてってよ!」

お姉様が指示を出すと、男の腕が伸びてきて、右手を潰されるほど握られた。

「…痛っ」

「エマのくせにほんと生意気。あ〜、やっと結婚できるなんて嬉しいわあっ!」

「やめてくださいっ、離して…!」


やだやだ、怖いっ…!

ギルバード様はこんな扱いしないのにっ!

お姉様に取られちゃうなんて、嫌だ!


「私の旦那様ですっ!身代わりだろうと、私はギルバード様がいいんです!」


そう叫んだ時、私の腕を掴んでいた男の悲鳴が聞こえた。



「…貴様、私の妻に何をしている?」


そこには男の腕を捩じ伏せて、見たことないくらい怖い顔のギルバード様がいた。


「ヒッ…」

お姉様の息を呑む音がした同時に、私はギルバード様の空いている手に抱き寄せられた。

いつものように強く抱き締められた。


あ、ギルバード様の匂いだ…。

「エマ、なんともないか!?怪我はっ?」

珍しく焦った声といつもの匂いにすっかり安心してしまい、ぎゅっと抱きつく。


…私、思ったよりギルバード様じゃないとダメみたい。


「エマ?大丈夫かっ?」

「…ギルバード様、好きです」

「うぇ、な、私の方こそ愛しているぞ!?」

「そうですよね」

うん、自惚れるくらいには愛されていると思う。


ぎゅ〜〜〜〜っとこれ以上ないくらいにしがみつくと、ギルバード様の上擦った声がした。

「ど、どうした?痛いか?怖かったか?わ、悪かった、やっぱり君を1人にするべきじゃなかった…!」

どうやら私が怯えていると勘違いしたみたいで、情けない声がしてくる。

ふふふ…、やっぱり私の旦那様は、ギルバード様だけね。


「ギルバード様が来てくれたので全然大丈夫です、ありがとうございます」

顔を上げて笑顔を見せると、ようやくホッとしたギルバード様の顔が見られた。



お姉様とお連れの方はすぐに警備の人に連れて行かれた。

お姉様は今回のことも含めて、籍を外されることに決まった。

私は早めに夜会を後にし、ギルバード様と帰りの馬車に乗った。


「万が一にも私が君の姉と結婚することはないし、私の子でもないからな!その前に億が一にも、エマと離縁する気はないっ!」

ギルバード様は私を膝の上に乗せて、先ほどから同じことを繰り返している。

「はい、わかっておりますよ」

「私が生涯愛すのはエマだけだっ!」

「はい、私もですギルバード様」

「だったら、二度と身代わりだなんて言わないでくれ…」

揺れた瞳で見つめられて、私はギルバード様が泣き出してしまうと、そんなことはないのにものすごく焦った。


「い、言いません!思ってません!ギルバード様には私だけです!!」


そう言い切ると、いつもの優しい顔に戻って、頬へのキスを落とされた。


「そうだよ、私は君のものだ」

ホッと息を吐くように、ギルバード様は私の肩に顔を埋めた。


「私、他の男性ではダメでした。さっきそれに気づいたので、私もギルバード様以外はイヤなんです」

そう告白すると、ギルバード様の目が閨の時と同じくらいギラリとした気がした。

そして、右手を取られて、そのまま指を舐め取られた。


「ギルバード様…!?」

「他の男に触られたと思うと気が狂いそうだからね、必要な消毒だよ」

絶対、そんなことないですよね…!?

というか、馬車の中なので、その気になるのは待って下さいっ…!


熱を帯びた青い目が私を見ながら、指を一本一本舐めていく。

まるで見せつけるようで、私の体が熱くなっていく。

「…っ」

「それとエマ…、私のことはなんと呼ぶんだっけ?」

意地悪く笑みを作った口元が、私の指を飲み込んでしまう。

「ギ、ギル…、それはだめです」

「駄目なもんか。君の全ては私がいただく、…家に帰ったら覚悟しておくんだよ?」

微笑むギルバード様を見て、大好きだけど早まったかもしれないと少しだけ思った。



お読みくださりありがとうございました! 毎日投稿46日目。

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