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ボッチの僕、イケメンの俺  作者: リディア


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第30話 いつもと違う距離

 待ち合わせは、モールの入口。


 土曜の午後、熱気と柔軟剤の香りが混ざり合う空間で、俺は手持ち無沙汰にスマホを眺めていた。



『もうすぐ着く』



 橘さんからのメッセージ。


 短い一文なのに、胸の奥が少しだけざわつく。

 理由は、分かっていた。


 顔を上げる。


「白石く〜ん!」


 聞き覚えのある声。


 振り向くと、桜井さんが手を振りながら走ってきた。

 その後ろに、中村さん。

 そして——橘さん。


「お待たせ」

「いや、俺も今来たとこ」


 そう答えた瞬間——


 桜井さんが、ぴたりと止まった。


「……え」

「?」


「ちょっと待って」


 真琴は俺の周りをぐるりと一周する。


「やっぱり、マジでイケメンすぎん?」

「そ、そうかな」

「いやいや、次元が違います!!」


 桜井さんは中村さんを見る。

 中村さんも、小さく頷いた。


「……学校と全然違う」

「眼鏡もないし」

「いや、そういう問題じゃない」


 桜井さんが、ニヤニヤしながら橘さんを見る。


「ねえ美咲。これがイケメン白石だけど、どう?」

「……知ってるから、そんなこと」

「でもさ、改めて見ると男らしい顔してるよね」

「もう、真琴……」


 橘さんは困ったように、でもどこか嬉しそうに笑う。


 その表情を見て、なんとなく居心地が悪くなって、俺は歩き出した。


「とりあえず、中入ろう」

「あ、待って待って」


 右腕に柔らかい感触が滑り込んできた。


「はい、今日の白石くんは『鑑賞用』じゃなくて『エスコート用』ね!」

「桜井さんっ!?」


 驚く間もなく、左側からもスッと腕を組まれる。


 中村さんだ。


「私も便乗。……へぇ、意外と腕、ガッシリしてる」


 完全に両花状態。

 右からは石鹸の香り。

 左からは甘いベリーの香り。


 腕に伝わる体温と感触に、脳がバグを起こしそうになる。


 ……嬉しいとか、ラッキーとか思う余裕なんてない。


 これ、絶対あとで面倒になるやつだ。


「…………ちょっと」


 低めの声。


 振り向くと、橘さんが立ち止まっていた。


 さっきまでの笑顔が消えている。

 怒っているわけじゃない。


 でも、眉間に少しだけ皺を寄せて、唇をきゅっと結んでいる。


 視線は、俺の両腕に絡む二人の手に、まっすぐ刺さっていた。


「……やめなよ。白石くん、困ってるでしょ」

「えー? 白石くん、満更でもなさそうだよ?」

「……困ってる。……っていうか、私が困る」


 消え入りそうな、でも拒絶の意志が詰まった一言。


 桜井さんと中村さんが顔を見合わせ、ニヤリと笑ってパッと腕を離した。


「買い物、進まないから。……行くよ、白石くん」


 そう言って、今度は橘さん自身が、俺の制服の袖をぎゅっと掴んだ。


 当てつけみたいに。

 でも、目は合わせない。


「……橘さん?」

「……他意はないから。ただ、はぐれたら困るでしょ」


 前を向いたままの彼女の横顔は、熟れたリンゴみたいに赤い。

 掴まれた袖から、彼女の指先が小さく震えているのが伝わってくる。


 後ろで桜井さんと中村さんが、小さくハイタッチしているのが見えたけど——

 今は、どうでもよかった。




 モールの中は、相変わらず賑やかだった。


 音楽。

 店の光。

 人の流れ。


「ねえ、あっちの雑貨屋」

「いいよ」


 四人で歩き出す。


 でも、距離感が少しおかしい。


 俺と橘さんが、並んで。

 桜井さんと中村さんが、少し前。


「……白石くん」


 橘さんが、小さく声をかけてきた。


「ん?」

「さっきは……ごめん」

「何が?」

「二人が、迷惑かけて」


「別に、迷惑じゃないよ」


 橘さんは、少しだけ安心した顔をする。


「……そっか」


 言いかけて、止める。


 本当は言いたかった。

 橘さんが嫌そうだったから、離れたんだって。


 でも、それを言ったら——

 何かが変わる気がした。


「菜月、あっち見たい!」


 桜井さんが突然声を上げる。


「……うん」


 中村さんも頷く。


「じゃ、後で連絡するね」

「え、でも——」

「行こ行こ!」


 二人はそのまま人混みに消えた。


 残されたのは——

 俺と、橘さん。


 モールの音が、一段だけ遠くなった気がする。


「……行っちゃったな」

「……うん」


 気まずくはない。

 むしろ、少しだけ落ち着く。


「どうする?」

「……このまま、見て回ろうか」


 並んで歩く。


 距離が、近い。

 肩が触れそうで、触れない。


「……白石くん」

「ん?」

「ありがとう」

「何が?」

「……さっき、腕、離してくれたこと」


 橘さんは、小さく笑った。


「私、ちょっと……気になっちゃって」

「……そっか」


 俺も、少しだけ笑う。


 ——やっぱり。


 橘さんは、気にしてた。

 俺のことを。


 それが、素直に嬉しかった。


「じゃ、服でも見ようか」

「うん」


 二人で、店の中に入る。


 外の音が、また一段遠くなる。


 この距離が——

 今は、心地よかった。

 本日も読んでいただきありがとうございます。

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