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ボッチの僕、イケメンの俺  作者: リディア


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3/22

第3話 理由を聞く資格

2025年も本日でラスト。

物語の中では、ヒナトたちが二十階層。エリアボスの扉を前に立っています。


今年も読んでいただき、本当にありがとうございました。

続きは来年!フォローしてもらえると励みになります。(リディア)

 既読が、つかない。

 スマホの画面を何度も確認しながら、俺は駅前のベンチに座っていた。時刻は九時五十五分。約束の五分前だ。


 今朝、橘さんから届いたメッセージへの返信は、まだ未読のままだった。

『明日、私の話を聞いてください』

 深夜に送られてきた、その一文が、頭から離れない。


 俺はすぐに返事を送った。

 当たり障りのない、短い文章だったはずだ。


 それでも、既読はつかない。


 来るのか。

 それとも、やっぱり昨日のことを後悔して――

 そんな考えが頭をよぎった、その時。


「ご、ごめん……!」



 声が聞こえて、顔を上げる。

 橘さんが小走りでこちらに向かってきていた。息を切らし、髪が少し乱れている。頬は赤く、必死に走ってきたのが一目で分かった。


「ごめんなさい、寝坊しちゃって……」


 申し訳なさそうに頭を下げた拍子に、ふわりと甘い香りが届く。


「いや、まだ時間前だし」

「よかった……白石くんを待たせたくなくて、必死で走ってきたから」


 その言葉に、胸の奥がわずかに温かくなった。


「どこか、行きたい場所ある?」

「……静かに話せるところがいいな」

「じゃあ、あそこのカフェとか」


 橘さんが指差したのは、駅前の小さなカフェだった。人も少なく、落ち着いた雰囲気だ。


「いいね」


 並んで歩き出す。距離は、昨日よりほんの少しだけ近い。

 カフェに入って窓際の席に座り、橘さんはアイスコーヒー、俺はホットを注文した。BGMだけが静かに流れる店内で、橘さんはコップを両手で包むように持ちながら、少し俯いている。


「あのね、白石くん」


 昨日より小さな声だった。


「私、昔……誰かに言われたことがあるの」


 俺は何も言わず、続きを待った。


「可愛いって言われるのは嬉しいけど、それだけで近づいてくる人ばっかりで……本当の私を見てくれる人なんて、いないんだって」


 指先が、コップの縁をなぞる。


「だから、誰かを好きになる資格なんてないって。どうせ私も、顔だけで人を選んでるんでしょ、って」


 胸の奥が、ずしりと重くなる。


「それ……誰に言われたの?」

「言えない。その人のことは、もう……」


 言葉が途切れ、橘さんは唇を噛んで視線を落とした。


「ごめん。無理に聞かなくていい」


 そう言うと、橘さんは顔を上げた。瞳が、少しだけ潤んでいる。


「……ありがとう」


 その笑顔は儚くて、思わず守りたいと思ってしまうほどだった。


「でもね、白石くん」

「うん」

「白石くんは、違った。私の顔じゃなくて、私を見てくれた」


「それは……当然だろ」

「当然じゃないよ。本当に」


 声は震えていたけれど、それは悲しみじゃなく、安堵に近かった。


「だから、友達からでいいって言われた時……正直、ほっとした」

「……そうなんだ」

「ちゃんと見てくれる人と、ちゃんと知り合いたいって思ったの」


 橘さんが顔を上げる。その瞳には、もう涙はなかった。


「変、かな」

「変じゃない」


 即答していた。


「むしろ……そう思ってくれて、嬉しい」


 その言葉に、橘さんの表情がぱっと明るくなる。


「ありがとう」


 ストローでアイスコーヒーを一口飲む。その仕草が少し子どもっぽくて、思わず視線を逸らした。


「ねえ、白石くん」

「なに?」

「また……会ってくれる?」

「もちろん」

「本当に?」

「本当」


 橘さんがほっとしたように笑う。その笑顔に、胸の緊張が少しだけ解けた。

 けれど、同時に不安も残る。橘さんは、まだ全部を話していない。誰かに否定された過去。その重さを、俺はまだ知らない。


「白石くん?」

「ごめん、ちょっと考え事」

「無理しないでね」


 その一言が、胸に刺さった。


「ありがとう」


 窓の外では、人が行き交っている。けれど、この席だけが時間から切り離されたみたいだった。

 橘さんの笑顔が、妙に眩しい。


 俺は知っている。

 善意が、誰かを傷つけることがあるのを。


 俺は経験している。

 守ろうとして、守れなかった過去があることを。


 もし橘さんの傷が、あの頃の記憶と重なるものだったら。

 もし俺が、また同じ選択を迫られることになったら。


 それでも――

 それでも俺は、今この人から目を逸らせなかった。


 理由を聞く資格が、まだ自分にあるのか分からない。

 けれど、聞いてしまった以上、もう後戻りはできない。


 そう確信しながら、俺は橘さんの向かいに座っていた。


 本日も読んでいただきありがとうございます。

 もし「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけたら、ブックマークや評価をしていただけると執筆の励みになります!

 どうぞよろしくお願いします。

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