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ボッチの僕、イケメンの俺  作者: リディア


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第25話 夕焼けの中で

 公園の夕焼けが、四人を包んでいた。


 ブランコが、きい、と鳴る。

 子どもの笑い声が、少し遠くで弾んでいる。

 風が木の葉を揺らして、乾いた音を立てた。


 僕は、立ったまま動けずにいた。

 橘さんも、同じだった。


 目が合って、逸らせない。


 桜井さんは腕を組み、少しだけ口元を緩めている。

 でも、その目は冗談じゃない。

 中村さんは一歩引いた場所で、静かに全体を見ていた。


 沈黙が、落ちる。


 心臓が、うるさい。

 逃げたい。

 でも——逃げたら、終わる。


 そう思った。


 僕は、小さく息を吸って、一歩前に出た。


「……すみません」


 その一言で、三人の視線が僕に集まる。


「桜井さん、中村さん」


 名前を呼ぶと、喉が少しだけ震えた。


「驚かせてしまって、ごめんなさい」


 桜井さんが、首を傾げる。


「ん? 何が?」

「学校での僕と、放課後の俺が……違うことです」


 一拍。


 桜井さんが、ふっと息を吐いて笑った。


「最初から気づいてた、ってわけじゃないよ」

「えっ?」

「でもさ」


 夕焼けの方をちらっと見てから、続ける。


「雨とか。カフェとか。準備室とか」


 中村さんも、小さく頷いた。


「点が、少しずつ繋がった感じ」


 その言葉に、胸の奥がきゅっと縮む。


「……それでも、隠してた理由は?」


 桜井さんの声は、優しかった。


 僕は、少しだけ考えてから、答える。


「学校では……目立ちたくなくて」


 それだけ。


 それ以上は、言わなかった。


 二人は、何も言わずに聞いている。


「放課後とか、バイトの時は」


 続ける。


「少しだけ、違う自分でいられる気がするんです」


 沈黙。


 その中で、橘さんが小さく息を吐いた。


「……私には、全部話してなかったよね」


 僕は、橘さんを見る。


「ごめん」


 正直に言った。


 橘さんは、少し迷ってから、首を振る。


「いいよ」


 その声が、ほんの少しだけ揺れていた。


「白石くん」


 桜井さんが、ふいに言う。


「一回、見せてみ?」

「え?」

「眼鏡。外して」


 一瞬、ためらう。


 でも——もう、逃げる理由はなかった。


 僕は眼鏡を外し、前髪を軽く上げる。


 三人の視線が、集まる。


「……はい、納得」


 桜井さんが即答した。


「完全にあっちの白石くんだね」


 中村さんが、静かに言う。


「でも、不思議」

「え?」

「ちゃんと、同じ人だって分かる」


 その一言に、胸の奥が少しだけ緩んだ。


 橘さんは、黙ったまま僕を見ている。


 その目が、少し潤んでいるように見えて——

 僕は、視線を逸らした。


「ねえ」


 桜井さんが、真剣な顔になる。


「なんで、美咲にも全部話さなかったの?」


 その問いに、胸がぎゅっと締まる。


 僕は、橘さんを見た。


「……怖かったんです」


 正直に言った。


 でも、それだけじゃない。


「橘さんだから、っていうより……」


 言葉を探して、少し間を置く。


「昔から、誰かに全部見せるのが、怖くて……」


 それ以上は、言えなかった。


 桜井さんは、何も言わなかった。

 中村さんも、静かに待っている。


 橘さんだけが、僕を見ていた。


 桜井さんが、ぱん、と軽く手を叩いた。


「じゃあさ」


 空気を切り替えるみたいに。


「これ、四人だけの秘密でよくない?」


 僕は、顔を上げた。


「えっ?」

「白石くんが目立ちたくないなら」


 桜井さんは、当たり前みたいに言う。


「私たちが守ればいいじゃん」


 中村さんも、静かに頷く。


「うん。それが一番」


 橘さんは、少しだけ迷ってから——

 小さく頷いた。


「……私も」


 その瞬間、胸の奥に溜まっていた息が、すっと抜けた。


 守られる——

 そんな感覚を、僕は知らなかった。


「ありがとうございます」


 思わず、深く頭を下げる。


「いいって、いいって」


 桜井さんは笑う。


「別にヒーローやりたいわけじゃないし」


 中村さんが、ぽつりと言った。


「美咲の大事な人だから」

「ちょ、菜月……!」


 橘さんの顔が、一気に赤くなる。


 僕も、熱くなった。


 夕焼けが、ゆっくり沈んでいく。

 風が少し冷たくなってきた。


「じゃ、帰ろっか」


 桜井さんが歩き出す。


 中村さんも続く。


 僕と橘さんも、並んで歩いた。


 距離は、ほんの少しだけ近い。


 誰も、恋を口にしない。

 でも——


 この関係が特別だということだけは、確かだった。


 もう、戻れないところまで来た。


 でも。

 それを怖いとは、思わなかった。

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