表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボッチの僕、イケメンの俺  作者: リディア


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/22

第2話 連絡先を交換しただけなのに

「付き合う、のは——まだ、無理だ」


 俺は、そう答えるしかなかった。

 美咲の瞳が、ほんの少しだけ揺れる。


 駅前の雑踏が、急に遠くなった気がした。

 夕日が建物の向こうへ沈みかけ、街灯が一つ、また一つと灯り始める。そんな中で、俺たちだけが時間から切り離されたみたいに、立ち尽くしていた。


「……そう、ですよね」


 美咲は俯いた。

 その声には落胆よりも、どこか納得したような響きがあった。


「ごめん。でも、理由も分からないまま付き合うのは、君に失礼だと思う」


 嘘はつけなかった。

 だって、美咲の目はあまりにも真剣で——適当に受け流すなんて、できるはずがなかった。


「失礼、か……」


 美咲が顔を上げる。

 その表情は、さっきより少しだけ柔らいでいた。


「変わってるね、白石くん」

「そう……かな」

「普通、こういう場面なら、勢いでOKするか、曖昧に断るかのどっちかだと思う」


 そう言って、美咲はくすりと笑う。

 その笑顔には、ほんの少しだけ安堵が混じっていた。


「でも、白石くんは違った。ちゃんと、私を見て答えてくれた」

「それは……当然だろ」

「当然じゃないよ」


 美咲は静かに首を振った。


「みんな、私の顔しか見てないから」


 その一言に、胸の奥がわずかに疼いた。

 何か大事な理由が、その奥に隠れている気がしたけれど——今は、踏み込めなかった。


「あのさ」


 少しだけ間を置いて、俺は言った。


「友達から、じゃ駄目かな」

「……友達?」


 美咲はすぐに答えなかった。

 ほんの一秒。

 それだけなのに、やけに長く感じられる。


「うん。いきなり付き合うんじゃなくて、まずはちゃんと知りたい。俺は、そうしたい」


 美咲は驚いたように目を見開き——そして、ふっと力を抜いた。


「……うん。それでいい」

「本当に?」

「本当。というか、それが一番嬉しいかも」


 その笑顔は、さっきよりずっと自然だった。

 胸の奥が、じんわりと温かくなる。


「じゃあ、連絡先……交換してもいい?」

「うん」


 二人並んでスマホを取り出し、QRコードを表示する。

 ピロン、という軽い音が、不思議なくらい大きく聞こえた。


「白石くん、明日って空いてる?」

「明日?」

「うん。話したいことがあるから。今日の続き……理由とか」


 スマホを見つめたまま、美咲は少しだけ頬を染めていた。

 その仕草が妙に可愛くて、俺は思わず視線を逸らす。


「午後からバイトだから……午前中なら」

「じゃあ、十時に、ここで」

「分かった」


 スマホをしまった美咲が、改めて俺を見上げる。


「ありがとう、白石くん。今日、助けてくれて。それから……友達になってくれて」

「いや、俺こそ……」


 何を言えばいいのか分からず、言葉に詰まる。

 美咲はそんな俺を見て、また小さく笑った。


「じゃあ、明日ね」

「うん。気をつけて」


 手を振って、彼女は駅の方へ歩いていく。

 その背中を見送りながら、俺はしばらく動けずにいた。


 ……何やってんだ、俺。


 スマホを開く。

 連絡先に追加された「橘美咲」の名前が、妙に眩しく見えた。


 友達から始める——そう決めた。

 けれど、本当にそれで良かったのか。

 もしかしたら、橘さんを傷つけてしまったんじゃないか。そんな考えが、頭の中をぐるぐると回る。


 それでも。


 明日が、楽しみだ。

 その気持ちだけは、否定できなかった。


 ポケットの中でスマホが震える。

 画面を開くと、橘さんからのメッセージが届いていた。


『今日は本当にありがとう。

 明日、ちゃんと話すね』


 その下に、見慣れない一文が続いている。


『私、前に——

 誰かを好きになる資格がないって言われたことがあるの』


 指が、止まった。



 ……は?



 続きの文字は、まだ表示されていない。

 入力中を示す点滅だけが、画面の端で小さく揺れている。


 胸の奥が、嫌な音を立てた。


 連絡先を交換しただけなのに。

 ただ、友達になっただけのはずなのに。


 ——明日、聞くことになる理由は、

 俺が想像していたより、ずっと重いものなのかもしれない。


 本日も読んでいただきありがとうございます。

 もし「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけたら、ブックマークや評価をしていただけると執筆の励みになります!

 どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ