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ボッチの僕、イケメンの俺  作者: リディア


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第19話 勉強会

 ファミレスのテーブルに、四人が座っていた。


  ドリンクバーの氷が溶ける音。

  誰かがストローを啜る音。

  揚げ物とコーヒーの匂いが混ざった空気。


  俺は、参考書を開きながら、少しだけ落ち着かなかった。


  向かいには、橘さん。

  その隣に、真琴さんと菜月さん。


  中間テスト前の勉強会。


  橘さんからの提案だった。


「白石くん、ここ教えてもらえる?」


  菜月さんが、ノートを俺の方へ差し出す。


  俺は、それを覗き込んだ。


  距離が、近い。


  菜月さんの肩が、俺の腕に触れそうなくらい。


「ああ、これは——」


  俺が説明を始める。


  菜月さんが、真剣にノートを見つめている。


  その真剣さが、少しだけ心地よかった。


「なるほど……」


  菜月さんが小さく呟く。


  その声が、妙に近くて——

  俺は、少しだけ視線を逸らした。

  橘さんが、こちらを見ている気がした。


 



  私は、ストローを噛んでいた。

  無意識に。


  菜月が、白石くんの隣に座っている。

  距離が、近い。


  なんで、そんなに近いの?

  心の中で、そう思ってしまう。


  白石くんは、菜月に優しく説明している。

  私の時より——楽しそう?

  そんなわけない。


  そう思い込もうとする。


  でも——胸の奥が、ざわついていた。


「美咲、大丈夫?」


  真琴が、小声で訊いてくる。


「え?」

「ストロー、潰れてるよ」


  その言葉に、手元を見る。


  確かに——ストローが、ぺしゃんこになっていた。


「……あ」


  慌てて離す。


  真琴が、ニヤニヤしながら私を見ていた。


 



  俺と真琴さんが、ドリンクバーへ向かった。


  二人で並んで、コップを持つ。


  氷を入れる音が、近くで聞こえる。


「ねえ、白石くん」


 ドリンクバーの前。

 氷を入れる音に紛れて、真琴が少しだけ距離を詰めた。


「……美咲のこと」


 一瞬、言葉を切る。


「どう思ってる?」


 俺は、すぐには答えなかった。


 コップの中で氷が鳴る。

 その音が、やけに大きく聞こえた。


「……大事にしたい人、です」


 それだけ言って、視線を落とす。


 真琴は、一拍遅れて「ふうん」と息を吐いた。


「……そっか」


 それから、急に目を逸らす。


「いや、その……」


 耳まで赤くなっている。


「別に変な意味じゃないからね? 親友として確認しただけだから」


 早口。


 明らかに、動揺している。


 ……なにこの人。

 イケメンすぎない?

 しかも、ちゃんと距離を守るとか。


 真琴はそう思ってしまった自分に、少しだけ腹が立った。


 親友の好きな人。

 分かってる。


 いやいや、親友の気になる人!

 分かってるってば!

 でも、さっきの横顔が頭から離れない。

 ……ずるい。



「……ほんと、羨ましい」


 ぼそっと零れた本音は、

 氷の音に吸い込まれて、白石くんには届かなかった。


 


「ちょっと3人でドリンク取りいこう」


 真琴がそう言って立ち上がる。


「え?」


 美咲が戸惑う。


「いいからいいから」


 真琴は菜月の腕を引いて歩き出した。


  真琴が、私と菜月を誘う。


「でさ」


 真琴が声を落とす。


「トイレ、行くよね」


  三人で席を立って、トイレへ向かった。


  鏡の前で、真琴が口を開く。


「ねえ美咲、あの人やばくない?」

「やばいって?」

「イケメンすぎるでしょ」


  真琴が、ニヤニヤしながら言う。


「あれで誠実とか、反則じゃない?」


  菜月も、小さく頷く。


「すごく誠実だと思う」

「でしょ?」


  真琴が私の方を見る。


「美咲、どうやって見つけたの?」

「見つけたって……」


  私は、言葉に詰まった。


「それに、全然自己中じゃないよね」


  真琴が続ける。


「私たちにも優しいし、距離感も完璧だし——」

「もう、やめてよ」


 私は真琴の背中を、軽く叩いた。

 グーで。


 力は入れていない。


 照れ隠し。

 それ以上でも、それ以下でもない。


「痛っ」


 真琴が笑う。


「今の、完全に照れたでしょ」

「してない」


 即答。


 でも、顔は熱かった。


  勉強会が終わって、俺たちは店を出た。


  夜の空気が、冷たい。


  橘さんが、少し離れた場所で真琴さんと菜月さんと話している。


  俺は、少し離れて待っていた。


「じゃあね、白石くん」


  真琴さんと菜月さんが、手を振る。


「はい、お疲れ様でした」


  俺も手を振る。


  二人が、駅の方へ歩いていく。


  橘さんが、俺の隣に来た。


「ごめんね、急に誘って」

「いや、大丈夫」


  俺は答える。


「楽しかった」

「本当?」

「うん」


  橘さんが、少しだけ安心したように笑った。

  二人で、駅へ向かって歩き出す。


  沈黙が落ちる。


  けれど、それは心地よかった。


「ねえ、白石くん」

「うん?」

「……菜月、可愛いでしょ?」


 軽く言ったつもりだった。

 でも、声が思ったより小さくなった。


 白石くんが、少しだけ戸惑った顔をする。

 それを見て、私は後悔した。

 言わなきゃよかった……。


「いや、なんでもない」


  橘さんが、少しだけ俯く。


「ただ……」


  言葉が途切れる。


  俺は、橘さんの横顔を見た。


  何か、言いたいことがあるように見えた。


  でも——それが何なのか、分からなかった。


「橘さん」

「うん?」

「俺、橘さんが——」


  言葉が、出てこない。


  何を言えばいいのか、分からなかった。


  橘さんが、こちらを見る。


「……なに?」

「いや、なんでもない」


  俺は、また歩き出した。

  橘さんも、隣を歩く。


  なんで、こんなに落ち着かないんだろう。


  何も悪いことはしていないのに。

  胸が、ざわついていた。

 それでも、橘さんの名前を見るだけで、

 少しだけ救われる自分がいた。


  駅が、見えてきた。


  別れ道。


  橘さんが、立ち止まる。


「じゃあ、また」

「うん、また」


  橋さんが、手を振る。


  その笑顔は、いつもと変わらなかった。


  でも——その奥に、何かが隠れている気がした。


  俺は、その背中を見送った。


  スマホが震える。


  画面を見ると、橘さんからのメッセージが届いていた。


『今日、ありがとう』


  その言葉を見て、俺は——


  少しだけ笑った。


『こちらこそ』


  返信を打つ。


  すぐに既読がついた。


  けれど、返事は来なかった。


  俺は、スマホをしまって、電車に乗り込んだ。


  窓の外を見ながら、考える。


  橘さんは、何を思っていたんだろう。


  答えは、出なかった。

 本日も読んでいただきありがとうございます。

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